深を知る雨
《14:20 Sランク寮》
「俺が負ければお前とAランクの連中を関わらせてもいいと言ったが、撤回する」
寮に入るなり、腕組みをした泰久にそんなことを言われた。
……ええ!?えええええ!?
「何で!?」
「ダメだ。とにかくダメだ」
いつもは約束を破るようなことはしないのに、どうしたっていうんだ。
「や、約束したんでしょ?」
「あぁ」
「いいじゃん、関わったって!」
「お前、あの相模遊とかいう奴に女だとバレただろう」
「ぬ」
「危険だ。もう関わるな」
「で、でも、最近まで盗聴してたけど、遊誰かに言おうとしなかったよ?これ以上広がらないように脅したし、人前ではなるべく関わらないようにするから、ね?」
「……そういう問題ではない」
じゃあどういう問題なの!?という意味を込めて見つめると、泰久は不機嫌そうに眉を寄せていた。
「……お前は」
そこで泰久は言葉を区切って口を閉じ、数秒して再び開口する。
「お前は、本当にあの男と――…」
「あれ、そっちの訓練はもう終わっていたんですか。早いですね」
泰久が何か言いかけた時、タイミング悪く外から一也が帰ってきた。
Dランクの訓練の指揮を終えて来たところなのだろう。
「……この話はもう終わりだ。とにかく関わるな」
泰久は勝手に話を終わらせて居間へ入っていく。
残された私は、しょんぼりしたまま一也を見上げた。
訓練が終わったばかりらしい一也は、疲れたように髪をかき上げる。
「何かあったんですか?」
「泰久がね、Aランクの皆に負けたの」
「へぇ、それは珍しい。体調不良ですか?」
うん、普通はそう思うよね。あの泰久が負けるなんて、余程酷い下痢と戦いながら戦ってたとしか思えない。
「あのね、今回Aランクに負けたら私とAランクの皆を関わらせるってことになってたんだけど」
「……いつの間にかそんな話になっていたんですね」
「負けたのに、泰久関わらせてくれないって言うんだよ。酷くない!?何とか説得したいなぁ。一也の方から理由聞いてみてよ」
「よりによって僕に協力を求めるんですか。あなたがAランク隊員の方々と関わることは僕も反対なんですよ?」
「まぁまぁそう言わずに。お願い。うまくやってくれたら私のこと好きにしていいから」
「……あなたって人は」
「制服コスプレがいい?アナルバージン捧げよっか?はたまた鞭?」
「僕を何だと思ってるんですか?」
「まぁこれは言い過ぎにしても、ベッドの中でなら一也の要望何でも聞いてあげる。ね、悪くないでしょ?」
「…………分かりましたよ」
「あは、一也って何だかんだ欲望に忠実だよね。……あ、そうそうそれと。雪乃嬢で性欲処理すんのはやめてくれると嬉しいなぁ」
「……どこで知ったんですか、名前まで」
「実は友達になっちゃった~」
冗談っぽく笑いながら一也を壁に追い詰め、爪先立ちして口付ける。
「私にしてよ」
「……、」
「一也の性欲処理のための相手は、私だけで十分でしょ。Sランク寮が嫌なら場所変えたっていいよ」
「それが嫉妬なら可愛いんですがね。どうせ、あの女性のために言っていることなんでしょう」
「嫉妬だって言ったら言うこと聞いてくれる?」
「あなたは本当に残酷だ」
「あれ、そんなに嫉妬してほしかったんだ?」
「……もういいです。どうせ本気のあなたに僕は逆らえない」
諦めたように溜め息を吐いた一也は、
「理由を聞き出してくるので、それまで僕の部屋にいてください」
と言って居間に入っていった。