深を知る雨
《11:00 ローマ》ルフィーノside
「きゃ~っ!すごいわっ!派手ね~!」
「エフィジオ、仕事で来てるの忘れてなあい?」
今日は大英帝国との合同軍事パレードの日だ。
伝統的な軍服を着用し、行進する大英帝国の兵隊。
その後に続く、銃を持って行進するイタリィの兵隊。
そのまた後には戦車が走り、空中にもジェット機が飛ぶ。
表向きは大英帝国とイタリィの同盟成立を祝うためのパレードだが、もちろん真の目的は敵国への牽制、能力の誇示だ。
大英帝国の首相と並んで座っているのは、大英帝国軍元帥である40代後半の女性、ナディア・モロニー。青色の瞳と茶系の髪を持つ、比較的大柄な女性。
今最も影響力のある女性としてヨーロッパでは話題の人物。
「ナディアさん、ほんとに美人ねぇ。化粧品何使ってるのかしら~?」
「……でもほんとにあれ、元帥なのかなあ?おれにはそう思えないけど」
「何アンタ、同盟国疑ってるわけ?」
「大英帝国を疑ってるっていうか、元帥の方を疑ってるんだよねえ。数年前1度体の形が変わった」
「そうかしら?そんな風に見えないけど」
「軍服の上からじゃそりゃ分かんないよお。おれレベルの空間把握力がないと気付かない程度」
「痩せたとかじゃなくて?」
「そういう変化じゃない。もっとこう――誰かがあの人を殺してあの人と入れ替わった、みたいなあ?今あの姿でいるのも変装能力のおかげだったりしてえ」
「考えすぎよ。同盟国の元帥まで疑ってどうするの」
「疑うのがおれ達の仕事でしょ?」
エフィジオにそう言い返し、ちらりとナディア元帥の方を見た――その瞬間。
「……っ」
――――目が、合った。こんなに遠くにいるのに、目が合ったことだけははっきり分かった。一瞬微笑まれたのだから。
今の会話を聞かれた?
いや、この距離でそんなはずは。
じゃあ何故おれを見た?
こんなに大勢の人がいる中で、おれを。
「エフィジオ」
「何よ?」
「前言撤回だ。あれは間違いなく、大英帝国の元帥だよ」
――――ただ者であるはずがない。