深を知る雨
《21:00 軍施設外》
夜になって私が一也と向かったのは、一言で言ってしまえばラブホ。
ティエンには用事があると言葉を濁して伝えた。あいつ、私がラブホ行くとか言ったら面白がって自分も行くって言い出しそうだし。未成年連れていけないっつーの……最近そういうの厳しくなってんだから。
因みに今回一也を外に誘ったのは私だ。定期的にしとけば一也が雪乃に手を出すことも無いだろう。一也は多分、“お腹が空いた時そこに料理があったから食べた”と同じ感覚で“ムラムラした時そこに抱いていい女がいたから抱いていた”んだと思う。
雪乃はもう一也に抱かれることに対しあまり乗り気ではないみたいだし、私も一也とヤりたいし、こうするのが一番いい。
というわけで到着したのだが。
私たちの前方。フロントの客室パネルの前に、一組のカップルが立って部屋を選んでいるようだった。
金髪美女と、がたいのいい男性のカップル。
……おや?何かあの後ろ姿、見覚えが……。
その時、ふと金髪美女の隣の男が私たちを振り向いて――固まった。
声には出さないものの、「あっ」って顔をされた。
隊長の浮気現場に遭遇してしまった。
明らかに隣の金髪美女は隊長の奥さんじゃない。この男、また女からの誘いを断りきれずに流されてここにいるパターンだな?
私の隣の一也はぼそりと呟く。
「これは……まずいところを見てしまいましたね」
「だからモーテルタイプのとこにしようって言ったんだよー。人に会わなくて済むしー」
「ここが1番近いじゃないですか」
「どうしよう?これでまた脅しの材料ができちゃうよ。後でこのホテルのサーバーから監視カメラの映像取っちゃったら、また隊長の弱味を握っちゃえたことになるよ。これ以上はさすがに可哀想だよ。脅してんの私だけど」
「文句は言えないでしょう。施設から最寄りのラブホで不倫とは、超能力部隊の隊長ともあろう方がなかなか無用心でいらっしゃる。それにしても最低ですね。前と相手違いません?」
「しっ!聞こえるよ?」
わざと聞こえるボリュームで喋っている私たち。
隊長は面白いくらい体をブルブル震わせる。
「善治《ぜんじ》、どうしたのぉ?知り合い?」
ボインな金髪美女が然り気無く隊長の腕におっぱいを当てて聞く。カーッ!羨ましいねえ隊長!私もそのおっぱいの感触を確かめてみたいもんだぜ!
ってそうじゃなくて。
「隊長って下の名前善治っていうんだ……知らなかった」
「ご安心ください、僕は正直名字すら忘れています」
「そんなこと言っちゃ可哀想だよ、聞こえたらどうするの?」
「そうですね、聞こえたら大変だ。これ以上はやめておきましょう」
「丸聞こえなんだが?」
おおっとー聞こえてたかー。
「だいじょーぶですよ隊長!私は男の浮気に理解ありますから。隊長みたいな男って一物は自分とは違う別の生き物だと思ってるんですよね?」
「凄く答えにくい質問をどうも……」
「浮気して家に帰らない男は最低だと思いますけどー、隊長はそうじゃないでしょ?ただ自分とは違う生き物であるペット的存在の一物にたまに餌あげてるだけですよね?隊長みたいな男の上半身と下半身は別、名付けて上下半身分離の法則!」
「…………」
げっそりした顔で私から視線を逸らした隊長は、何も言わずゆっくり出口の方向へと歩いていく。
金髪美女は「は?しねーのかよ」みたいな顔をしているが、隊長の方は知り合いと会ったことで萎えたのだろう、本当に帰りたそうにしている。
……あらら。お邪魔しちゃったかなー?