深を知る雨
隊長たちがいなくなった後、一也はパネルで適当な部屋を選び、出てきたカードを取って私と一緒に年齢確認のゲートを通過する。
部屋へ向かいながら、一也はふと口を開いた。
「言いたかったんですが」
「うん」
「僕の性欲処理の相手を限定するなら、あなたも限定して然るべきでは?」
「え?」
「あなたも、性欲処理の相手は僕だけにすべきです」
「あー。言われなくても、ちょっと前の相手とはもうしてないよ。今は一也だけ」
「Cランクの澤小雪ですか」
「やっぱ調べ済みか……」
「一度能力で操ってやろうと思ったんですがね、無理でした。自覚があるのか無いのか知りませんが、彼Sランクでしょう」
そう。小雪がSランクではないかと疑い始めた理由には、もう1つこれがある。その気になれば、一也はいつでも私と小雪を関わらせないよう仕向けることができたはずだ。
なのにしなかった。否、できなかった。
一也の能力はS、A、Bランク能力者には効かない。Cランク能力者には効果があるはずなのに、小雪に対しては能力を発動できなかったのだと思う。
「まーねー。軍内部のSランクは一也と泰久だけだと思ってたんだけど、思わぬところに物凄い戦力が潜んでて嬉しいよ、私は」
「……もしかして、知ってて近付きました?」
「まさか。偶然友達になった相手が偶然Sランクだったの。私ってほんと持ってるよね、出会い運。……いや、Sランクを引き寄せる運?思えば昔から私の周りってSランク能力者ばっかだったし。日本帝国のSランク能力者5人のうち3人は一般人だって言われてるけどー……実は全員軍内部にいたりして」
「そうだとしたら超能力戦では怖いもの無しですね」
カードキーを使って部屋に入り、後ろで鍵が閉まったことを確認する。
ここから一緒にお風呂に入るのがいつもの流れ。一也がネクタイを外して上の服を脱ぎ始め、私も同時に脱ぎ始める。
そこで、ふと久しぶりに見る一也の背中に目がいった。
「前から聞きたかったんだけど、その背中のタトゥーさ、何かの傷跡隠してんの?」
「……気付いていたんですか」
「触った感じが他の部分とちょっと違う」
「昔、差別が酷かった時期に袋叩きにされましてね。危うく死ぬところでしたよ」
「ええ!?何それいつ!?泰久がいながら!?泰久何してんの!?」
「……やっぱり、覚えてないんですね」
「へ?」
「そんな目に遭ったのは、僕が泰久様の護衛になる前です」
泰久の護衛になる前なんだったら、当然私とも知り合ってない頃だ。
なのに、“覚えてないんですね”?
「それってどういう――うひゃっ!ちょちょちょ何してんの気が早いよ!?」
「今日はお風呂は後にしましょう」
淡々とそれだけ言った一也は、私に深いキスをした。