深を知る雨
「……10キロメートル圏内に巨大ロボまもるくんが10体」
「うん?」
「ご存知の通り、まもるくんは陸上での中心気圧850ヘクトパスカルまでの台風を想定して作られたものです。風速100メートルでも耐えられます」
台風の際、人間や家屋の安全を守るために沖縄を始め日本全国に設置されたロボットのまもるくん。
いくら気流操作能力者でも……まもるくん相手じゃ不利でしょう?
「5体お借りしてきました」
私の身長の20倍はあるであろうドでかいロボット、まもるくん達がゆっくりと私の背後に着陸する。
ほんとは10体持ってきたかったんだけど、このグラウンドそんなに入らないしね。
「そんなものを遠くから5体も同時に持ってくるなんて、Sランクレベルの念動力でも難しいはずだが?」
これは流石にビビるだろうと思ったのに、紺野司令官は笑顔を崩さない。
それどころか面白がっている。……あ、予想外の展開が好きなんだっけこの人。
そりゃあ、この質量を念動力で運んで来るのは無理だろう。
でも、私はロボット同士のネットワークに侵入してロボット達に指示しているだけだ。ロボットに自主的に動いてもらえるのなら、念動力者ほどの体力はいらない。
紺野司令官の能力についてはよく知らないが、40を過ぎればBランク以上の能力を維持することは不可能だというデータがある。
よって紺野司令官の能力レベルは精々Cランク程度。Cランクレベルの気流操作で、まもるくん5体をどうにかできるはずがない。
「オレ達がここで軍人として学んでいるのは、人を殺す技術です。今実践してもいいんですよ?」
「面白い、どうやらただのEランク隊員ではないようだ。小雪くんのように能力レベルを偽って入隊したんだろう。―――君は一体何者だ?」
私はロボットを使って先程紺野司令官が投げてきた看板を拾わせ、それを紺野司令官の背後の壁にぶつけさせた。
ガチャン、と大きな音をさせて看板は壁と衝突する。
「こちらのことを詮索する前に、さっさと約束してもらえませんかね。小雪を解放すると」
今の攻撃をちょっとずらして紺野司令官に当ててたら大怪我間違いなしだ。
さすがにそろそろ、状況をよく考えてくれますよね?という意味を込めて微笑むと、紺野司令官の方もクックッと笑って軽く両手を上げる。
「降参だ。君の言う通り僕は精々Cランク程度の気流操作能力しか使えない。こんなロボット相手では歯が立たないよ。小雪くんのことはもう苦しめないことを約束しよう」
……降参してるくせに笑顔なのが腹立たしいが、とりあえず力量差は見せつけられたようだ。私が近くにいる限り、この人はもう小雪で遊んだりしないだろう。
「約束、破ったら命は無いと思ってくださいね」
ロボットに指示して元の場所に戻らせる。
飛行して去っていく大きなロボット5体を見上げながら、紺野司令官は呟いた。
「スマートロック解除、能力抑制電波遮断、ロボット操作―――……あぁそうか。君は、」
風に吹かれながら、私に向き直る。
「橘優香の妹―――現SランクNo.1か」