深を知る雨



…………そこまでバレちゃったか。

Eランクでないことがバレるのはもう仕方ないと思ってたけど、特定されるのは想定外だ。

「……妹じゃなく弟ですよ」
「彼女に弟はいない。それに、空間把握で君の形状も今分かった」

げ、もう誤魔化せないじゃん。

「女である君が何故入れた?一ノ宮くんの能力かな。いや……羽瀬くんが裏で手を回したか。彼は君の姉を尊敬していた。君の言うことなら聞くだろう」
「そんなことありませんよ。なかなか聞いてくれなくて苦労しました。隊長への処分は勘弁してあげてくださいね」
「性別がバレたというのに、あまり動揺を見せないんだな」
「バレちゃったんだから仕方ないでしょう。あなたの場合、多分他の上層部の連中にバラしたりしないでしょうし」
「ほう、何故そんなことが言える?」
「そんなことしたら、私はただ辞めさせられるだけじゃないですか。それ、あなたにとってはつまらないでしょう?私みたいな破格な存在を消すのは惜しいんじゃありません?私がこれからどう動くのか見てみたいって思いません?」
「姉に似て可愛くない性格だな」
「それあなたにだけは言われたくないんですけど」
「君は何のためにここにいる?」
「超能力部隊の女性禁制を廃止にするため、とでも言っておきましょうか」
「へぇ。なら僕を脅してはどうかな?上層部の人間の弱味なら大方握ってる。僕を動かせば手っ取り早く廃止まで追い込めると思うけどね」
「……それじゃ、意味無いんですよ。“女性は役に立たない、弱みになる”っていう愚かな考えを払拭したいんです、彼らの頭から。彼らが自ら女性禁制を廃止にしないと意味が無い」

―――そんな考えを植え付けさせてしまった原因を作ったのは、本当はお姉ちゃんではなく私だから。

「今は静かにこの部隊の様子を見ているんです。どんな人間がいるのか、戦時に最も役立ちそうな能力は何か、とか。時期が来れば目立つ行動もしようとは思ってますけどね」
「あぁ、なるほど、じゃああれも君か」
「あれ?」
「羽瀬君が訓練の指揮をSランク隊員に任せているというのは、君が彼を動かしたんだな?」
「ご想像にお任せします」
「羽瀬君がサイバー攻撃からの防衛を任せているという能力者も君か。大人数で24時間体制を作っているのかと思っていたが、なるほど、君なら一人でも十分だ」

紺野司令官の態度で分かる今この人の中で私の存在が“どうでもいい一隊員”から“新しい娯楽”に変わった。

その証拠に、物凄く楽しそうにニヤニヤしている。やだなー、この笑顔。

「君がいるということは、日本帝国軍にSランク5人が揃ったことになるな」
「……5人って言いました?」

私、一也、泰久、小雪……あれ、4人じゃないの?

「ああ、君は知らないのか。姉の方はすぐ気付いたぞ」
「……どういう意味ですか?Sランクが軍内部にもう一人いるとでも?」
「あぁ」
「…………え!?誰!?私の知ってる人ですか!?」
「知っているだろうな」
「な、名前は?」
「―――そうだ、ゲームをしないか?」
「……は?」

いつの間にか近くまで来ていた紺野司令官は、私の動きを制止するかのように人差し指を私の額に当てて言った。

「今から3ヶ月以内に、誰がもう一人のSランク能力者か、君が一発で当てられたら上層部の他の連中には君のことを徹底的に隠してやろう」
「……、」
「無条件で庇ってもらえるとでも思ったか?今君は弱味を自ら僕に晒しているようなものだ。友人のことで感情的になり僕に能力を見せるとは、姉よりは頭が悪いようだな」

ム、ムカつく……!

「っはは、君は表情が豊かで人間らしいな。作った顔しか見せなかった姉とは大違いだ。いや、友人を助けようとしている時点で姉とは対極か。あれに人の心は無かった」

懐かしむように目を細める紺野司令官の口振りからして、お姉ちゃんとは浅からぬ関係だったのだろう。

「……そんなことないです。お姉ちゃんは誰よりも優しかったです」
「優しい?あれがか?」

心底驚いたって顔をされた。

ふん、紺野司令官なんか軍にいる時のお姉ちゃんしか知らないじゃん。お姉ちゃんの優しさは紺野司令官みたいな人には分からないでしょーね、と嫌な言い方をしかけてやめた。

この男相手に口喧嘩はしたくない。ていうか正直あんまり関わりたくない。

「寒い中私の話を聞いてくださってありがとーございました」

代わりに口先だけの礼を言えば、紺野司令官は片方の口角だけを上げてにやりと笑うのだった。



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