深を知る雨
遠くに見える街は明るい。
上空を様々な物体が飛び交っている様子を、最近また値上げされた煙草を咥えながら眺めた。
時折哀との間にある境界線をもどかしく感じてしまうのは、俺の勝手かなぁ。
哀の嫌がることはしたくないのに、哀に自分を関わらせてほしいとも思うのだ。
「……俺だって助けたいのにな」
吐き出した煙が空へ消えていく。
その時、端末が鳴った。非通知からの着信だった。
「もしも、」
『小雪!?今どこにいんの!?』
俺のもしもしを遮るように電話の向こうで大声を出したのは哀だった。……何で俺の番号知ってるんだろう。
『晩ご飯作って待っててって言ったじゃん!』
あれ、もしかしてもう俺の部屋にいるのかな。
「ごめん、まだ部屋に着いてなくて……」
『はぁあ!?びっくりするじゃん!また何か無茶しに行ったのかと思ったじゃん!部屋にいろっつったのに何で私より遅いわけ!?』
……こ、これは。
『心配するでしょ!?ほんとやめてよ!さっきだって部屋行ったらもういないしさ!置いてあったの紙一枚だけだしさ!そういうの怖いから今後一切やめてくれる!?』
哀……かなり怒ってる……。
「ごめん哀」
『今回ばかりはそう簡単に許してあげないから!』
「ごめん、どうしたら許してくれる?」
『許さない!どーせまた私に何かあったら無理してでも守ろうとするんでしょ!?そういうのいらねー!今日は晩ご飯もいらねー!外食する!』
「もう暗いのに危ないよ」
『そういう心配もいらねー!何歳だと思ってんの!』
「何歳だとか関係ないよ。ただでさえ最近治安が……、」
『うるせー!!』
プツリ、と通話を切られた。
……どうしよう、怒らせてしまった。