深を知る雨



「そう言うお前はいんのかよ、好きな奴」


不意にそんなことを聞かれて、瞬時に泰久の顔が思い浮かぶ。


「…オレは…オレじゃない奴を好きな奴をずっと好きでいる」


泰久はきっとどう足掻いたって絶対に私のことを好きにならない。今でさえそうなんだから、私が8年前何をしたかを知れば尚更だ。

狡い私はあの時何があったのか誰にも言ってない。ずっと隠している。今後誰かに言うつもりもない。


「片想いお疲れ様やね」
「まーどうせお前じゃ一生叶わない恋だな」

「るっせーなぁ!お前らだって片想いだろ!?」


泰久には注意されたが、正直こいつらと話すのは楽しいと思い始めている自分がいた。優しすぎる保護者的存在の泰久や一也とは違って、友達みたいに話せる。年も遊や薫の方が近いし。

……ばれなければいいんじゃないか。悪いことする子供みたいな発想が浮かんでくる。Sランクはみんなより先に全範囲の授業を受けさせられるから、既に受けるべき授業は受け終わっている。この教育所に来ることはない。

ちょっとくらい薫たちと話してたってばれないだろう、なんて思っていると、ふと端末の表示する今日の日付が目に入った。

6日……盗んだ情報だが、確か“あいつら”が将官会議をする日だ。あいつら将官会議をする日は決まって多くの料理を頼むから、今日もきっとそうだろう。

……時差は1時間。今夜もちょっと顔出してみようかな。




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