深を知る雨

精神感応能力者によるテレパシーでの放送だが、一般部隊の人たちはこんなにはっきりしたテレパシーを初めて経験したらしくざわめき出す。

そういえば、休憩が始まる前に次の集合場所伝えられたな。

「……あれ、Eランクはどこだっけ」
「第2グラウンドですよ」
「お、おお……そか、ありがとう。Eランクのことまで覚えてるんだね」
「三歩で忘れる鳥頭のあなたはどうせ忘れるんじゃないかと思いまして、仕方ないから記憶していたんです」
「ひっど!」

第2グラウンドってここから結構遠いじゃん。

混むだろうし、さっさと行かなきゃいけない。

「オレのいねえ間に手ぇ出すなよ!」と去り際に麻里に対し捨て台詞を吐いて走り出す。


移動用の無人車を待ってる時間もそう無いのでいっそ走って行こうと思い立ち、建物の裏を通ってあまり知られていない近道を抜ける。

すると、人気の無い木陰に、当然のように遊が座っているのを発見した。

この人練習サボってるうううう!!

「何やねん、お前か」
「……パレードの練習しないの?」
「あんな人混みに何時間もおれっか、暑苦しい」

そんなんで大丈夫なのか、全体の行進もあるのに!

「一人なん?」
「そうだけど?」
「珍しい。澤家の兄ちゃんの方とはおらんねんな」
「あー……うん」

小雪とはあれから話してない。小雪は私と話したいみたいで度々視界に入ってくるけど、その度全力で避けてる。

私があまりに逃げるから一度全速力で追い掛けられた。でも無人車を利用して逃げた。

……あれ?何か鬼ごっこして遊んでるみたいじゃない?


と。ふとそこで紺野司令官の話を思い出す。

そういえば、遊もSランク能力者って可能性は十分あるんだよね。超能力部隊の有名人だし。

もう直接聞いちゃうか?“遊ってSランク?”って。……でも、そんな軽いノリで聞いて答えてくれるくらいならわざわざ隠したりしないか。

下手に聞いたら警戒されて余計聞き出すのが難しくなる可能性もある。

私は喉まで来ていた質問を飲み込み、代わりに別の質問を投げ掛けた。

「ねぇ遊、売国奴探し、手伝ってくんない?」

今Cランク隊員から順に全員分の端末をクラッキングして連絡内容を確認しているところだ。

今のところ怪しい人間はいないが、別の連絡手段を取ってる可能性もあるし、その連絡手段が古いものであれば私の能力では探れない。

「手伝うも何も、元々俺が言い出した話やろ」
「……遊って真面目だよねー」
「はぁ?どこが」
「だって、売国奴探しなんて上に任せときゃいいじゃん」

思いっきり首突っ込んでる私が言えた台詞ではないが、遊は軍のことを気にしすぎなような気もする。

「……今のうちに力になっとかなあかんからな」
「え?」
「俺は今回の戦争には参加できへんやろうし」
「……それってどういうこ、……、…」

質問を遮るように唇を押し付けられた。

……お前は!何度!乙女の唇を奪えば気が済むんだ!

「見られたらどうすんの」
「知らん」
「遊には超能力部隊員の中に恋人がいるって言われるよ」
「言わせとけ」
「ただ唇と唇を接触させるだけって何が楽しいのか分かんないんだけど」
「……舌入れろってか?」
「わーっ!すんませんすんませんそういう意味じゃないですちょっ怖いマジモードになんないで怖い!」

マジのベロチューをかましてきそうな勢いで近付いてきた遊から全力で逃げる。

根拠は全くないけど何か遊のベロチューはヤバそう!立てなくなりそう!

それが過剰反応だったのか、遊は吹き出した。そして、楽しそうに私の頭を片手でわしゃわしゃ撫でてくる。

最近遊は私の頭を撫でることが多い。多分犬か何かだと勘違いしてる。

しかし暫くして、不意にその顔から笑顔が消えた。

「なぁ。俺にもし何かあったら、薫のこと頼んでもええか」
「……へ?」
「薫はまだ過去に縛られとる。もしあいつが暴走しそうになったら、止めたってくれ」

暴走……人を殺しそうになったら、ってことだろうか。

「何でそんなこと私に言うの?」
「お前、前に薫のこと止めたやん。俺があんだけ忠告したっとんのに、あんな全身タイツ着て、薫のこと止めに行った」

あのクソダサ全身タイツのことは掘り返すな恥ずかしい!

「俺はあん時、お前やったら、もしかしたら薫のこと救えんのちゃうかって思った。だから、あいつのこと頼まれてほしい」

遊の表情は真剣そのものだから、本気で言ってることは分かる。

でも。

「それは無理」
「……ここは嘘でもはいって言うとこやろ」
「いや、だって無理だし。……っていうか!やばい!もう時間がない!私行くね!」

そう言って立ち去ろうとしたのに、私の手首を遊が掴んできた。

何か用事があるのかと振り返ったが、遊は何も言わない。しかも数秒してすぐ離された。

「…何、どしたの」
「……何でもない」
「ほんとに?」
「いや、ほんまに何でもないねん。……何しとるんやろ、俺」
「はあ……。何でもないなら、もう行くね」

よく分からないが、とりあえず用事は無いということなので遊を置いてまたグラウンドまで走った。




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