深を知る雨
大阪湾に面する神戸は、国の政策により日本有数の学術都市となり、多くの大学や研究所が集まるようになった。
世界最先端の超能力研究を行っている場所はどこかと聞けば、誰しもが神戸と答える程だ。
時は2185年。
美しい緑と研究施設が立ち並ぶその神戸市で、相模遊は育った。
遊は10歳の時、2つ下の妹と共に日本の超能力開発をリードする有名な育成所に入れられた。
超能力が重要視される時代、遊は自分の両親が何のために自分と妹を能力者育成所に入れたのかよく分かっていた。
言ってしまえば、娘や息子が優秀な能力者になれば、自分達の名誉となるからだ。
遊は自分達のために子を利用する両親を昔から冷めた目で見ながらも、両親の本音に気付かない振りをして生きていた。
“子供らしく”生きることに努めていた。
更に言ってしまえば、遊の両親は生まれつきCランクレベルの読心能力を持つ遊を気味悪がっていた。
自分達の思考をどこまで読まれているのか分からず、隠したいことも隠せないであろうことに常日頃から怯えていた。
遊はそのこともきちんと理解していた。
何故なら彼の周りの大人は両親に限らず彼の能力に怯えていたからだ。
遊は幼い頃から人間の多面性を知っていた。
その上で、早い段階から人間という生き物が、夏に放送されているホラー番組や同じ教育機関にいる子供たちの間で流行っている都市伝説よりも恐ろしいものであるように感じた。
人の温もりに触れたところで、まずはそれが本物かどうか疑ってかかる癖がついた。
遊の妹は杏という。
杏は生まれつき弱い読心能力を持っていたが、精々Eランク程度で、遊ほど強力なものでは無かった。
遊は杏を時折羨ましいと思うことがあった。
まだ制御しきれない強力な読心能力のせいで、知りたくないことを知ってしまうことが多々あったからだ。
母親の不倫。
友人の嘘。
行き交う人々の欺瞞に満ちた言動。
1度知ってしまえば知らなかった頃には戻れない。