深を知る雨
遊たちが入れられた育成所には東館と西館があり、遊は東館へ、杏は西館へと送られた。
能力者たちにはそれぞれの教育プログラムが与えられ、それに従って検査や能力強化を毎日行う。
どうやら東館はCランク以上の能力者を管理している建物らしく、遊の周りには高レベル能力者が多数いた。
西館と東館の能力者の交流は殆ど無い。
東館から西館へ行くことは禁じられていたし、西館から東館へも、許可された能力者しか行ってはいけないことになっていた。
遊はそのうち杏がこちらへ来るだろうと思っていたが、どうやら杏は東館へ行くことを許可されていない人間の一人らしく、いつまで経っても来ることは無かった。
「あなたには能力の急速な成長が見られるわ、相模くん。Aランクも夢じゃないわよ」
育成所の研究者たちは見込みある遊のことを誉めそやしたが、遊は自身の才能に対しあまり興味を抱かなかった。
自分の能力が伸びても、自分を利用しようとする両親が喜ぶだけだと思っていたからだ。
世界で最も能力者の多い日本帝国でも珍しいAランク。
この育成所を卒業した人々の中でも、Aランクは2、3人しかいないという。それほどAランクになることは難しい。
Cランクであった遊は日々の能力強化プログラムをこなしていくうちにAランクに近い数値を出すようになり、育成所側は自分達組織の功績だと喜んだ。
BランクとAランクの間の壁は大きい。ましてCランクからAランクなら尚更だ。
育成所の過去のデータから見てもCランクからAランクになった例は無く、育成所側の予想通り数ヵ月後Aランクとなった遊は、たちまち育成所の有名人になった。