深を知る雨
育成所にいる子供たちは、フェリーの2等寝台のような寝室で眠る。
遊がいたのは8人部屋で、その中でも遊は入り口に近い方のベッドを指定されていた。
「なぁ、おれさ、今日西館から来た奴に聞いたんやけど、やばいらしいな、西館」
「ヤバイって何がよ?」
「マジで出るらしいねん、幽霊」
「そういうのやめろや……トイレ行けんくなるやろ」
奥の方の4人が消灯時刻は過ぎているというのにヒソヒソ話しているのを、寝付きの悪い遊は天井を眺めながらぼんやり聞いていた。
「なぁ、行ってみぃへん?西館」
「は?駄目やろー、怒られんで」
「ええやーん、西館から来てた子可愛かってんもん。こっちの言葉ちゃうかったし、多分遠方から来た子ぉやで、あれは。関東辺りちゃうかな」
「なんやねん、女の子目当てかいな」
「どんな子?髪長い?」
「お前も何興味持っとんねん」
「髪は長い方やったなぁ。何か不思議な雰囲気の子ぉやったわ」
他愛ない会話を聞きながら、遊は天井のシミを眺めていた。
自分はいつまでこんな所にいなければならないのだろう、と考えていた。
もうAランクになった。
これ以上能力を強化したって意味はない。
元々何に使うのでもない能力だ。
軍人志望ではあるが、他人の本音が分かったところで戦場では武器にならない。
育成所側も、遊がAランクになってからは遊のデータを取るばかりで、その強化には力を入れなくなった。
遊は育成所の大人たちに検査される度、自分の個人情報を抜き取られていく感じがして不快だった。