深を知る雨


西館からやってきた少女を見つけることができたのは、意外にも探し始めてそう日数が経っていない頃だった。

東館と西館では服の色が異なるため、探さなくても見つかった。

腰までの長い髪を持つその少女は、遊と同じくらいの年齢だった。


少女の名前は瀬戸川麻里。

能力者育成所の統合に伴い、さいたまから移ってきた人物だった。

遊は盗聴器の有無を確認するためまずは周囲、次に麻里の服を見た。

しかし、

「盗聴器なら問題ないわよぉ?こっそり切ってあるから」

麻里はさらりと先に答える。

遊は麻里の心を読み、それが嘘でないことを確認すると、ようやく口を開いた。

「お前、名前は?」
「瀬戸川麻里。あぁ、あなたは名乗らなくていいわよぉ?優秀なあなたのこと知らない人なんてこの施設にいないからぁ」
「西館に幽霊が出るって吹き込んだんは、お前か」
「あぁ、あの子のことぉ?ちょっとからかっただけよぉ。ほんとに出るわけないじゃない。わたしはただ“西館ではよく叫び声が聞こえる”とか“夜中にウロウロしてる人が何人もいる”とか伝えただけよぉ。事実だしねぇ」

どうやら西館の様子は、東館のそれとは随分異なっているようだった。

東館ではトイレ以外で寝室の外へ出る者はいないし、叫ぶような人間もいない。

不安を募らせながら、遊は本題に入った。

「職員にバレんと西館へ行く方法って無いんか」
「無いわよ、そりゃ。監視カメラがあるしぃ、録画で確認してる従業員がいるからぁ、入れたとしても後でバレるわぁ」
「……」
「本来ならねぇ」
「本来なら?」
「実はバレない方法が1つだけあるのよねぇ。“わたしと一緒に行くこと”なんだけど」
「は?」
「Dランクレベルの透明化能力って言えば分かるかしらぁ?半径2メートル以内の人と自分だけなら監視カメラに映らないようにできるわぁ。ぶっちゃけちゃうと、わたしだってほんとはこんなに頻繁にこっちへ来ることは許可されてないのよねぇ。能力使ってこっそり来てるだけ」
「……何でそこまでしてこっちに来るんや?」

そう聞けば、麻里はまだ10歳やそこらの子供とは思えないほど暗い笑みを浮かべ、冷たい声で言った。

「西館のことを何も知らずのうのうと生きてる東館のオプティミスト共に、こっちの現状を知らせたいからに決まってるじゃなぁい?」

麻里の心にある憎悪と嫉妬を感じ取り、思わず黙り込んだ遊に、麻里はくすっと笑って踵を返す。

「ま、自ら知ろうとするあなたのその姿勢には好感を覚えるわぁ。特別に安全ルートで連れてってあげる。付いてきなさぁい」



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