深を知る雨


 ◆


「相模遊と瀬戸川麻里は危険です。特殊な監視カメラを設置した結果、西館を探り回っている様子が記録されました」
「残念ですねぇ、無くすには惜しい人材です」
「相模遊のような優秀な能力者を処分するわけにもいかんでしょう。別の育成所に移しましょうや。軍人志望のようですし、軍事都市の育成所に移せば入りやすくもなるでしょう。なぁに、彼だって所詮は子供です。時が経てばここのことは忘れますよ」
「瀬戸川麻里はどうします?」
「レアな能力の持ち主やし、彼女も処分するわけにはいきませんなぁ。同じく軍人志望のようですし移しましょう。定期的にこちらに通わせて、回春能力のデータを取ればいい」

回春能力。

世界に2人しか持つ者がいないと言われる、貴重な能力の1つを麻里は透明化能力の他に持っていた。

回春とは名付けられたものの、言ってしまえば老人以外にも適用される若返り能力だ。

Eランクレベルの微弱なもので、精々肌のハリを変える程度のものではあるが、育成所側にとっては十分研究価値があった。

「では、彼らがこれ以上不審な動きを続けるようであれば、すぐにでも関東支部に移す、ということで。今日は解散しましょう」

会議が終わり、育成所の職員たちは立ち上がった。


―――ちょうどその頃、遊と麻里が杏の元へ向かっていること等知らずに。




< 178 / 331 >

この作品をシェア

pagetop