深を知る雨
2200.12.07
《21:45 Aランク寮前》遊side
図書館に寄っていた俺の帰りを待っていたらしい薫は、寮の入り口の前で俺に衝撃の事実を伝えてきた。
「里緒がいなくなった」
「……はぁ?」
「それも、暴走状態のままだ。上層部は全力で里緒を探してる。5分前殺害許可が出た」
里緒の能力を使えば、町1つ吹っ飛ばすことも難しくない。多くの一般人に被害が及べば揉み消せないだろう。日本帝国軍の越度で大きな事故が起こったとしたら、軍隊への反発をより一層招きかねない。
「……軍部の都合で殺すんか」
「そういうことになるな」
里緒の記憶を読んだことがあるから、あいつがどれだけ悔しい思いをしたかは知っている。隊内で起こったあの事件は揉み消され、あいつにあんなことをした連中への処分は超能力部隊からの追放のみ。
「組織ってのは、そんなもんだ」
薫は冷たく言い、寮の中へ入っていった。
あいつは時に冷たい。冷たい、というか、諦めるべきところで諦めるようにしているんだろう。賢い性格だ。
俺は寮で休む気にはなれず、来た道を戻ることにした。暫く夜風に当たれば気持ちの整理がつくだろう。
仕方のないことだ。薫の言う通り組織というのはそんなもの。あんな不安定なAランク能力者を生かしておく方が危険だ。………そうだろ?
「里緒って誰だ?」
「……っ」
角を曲がったところで、予想だにしない相手が何冊かの本を抱えて立っていて驚いた。
それは、最近よく会うようになったEランクのチビだった。
「…盗み聞きか」
「いやー、そんなつもり無かったんだけど、薫に返すもん返しに来たら聞こえちゃってさ」
チビの腕の中にはよく見るとエロ本であろう本があった。
何を貸し借りしてんだよお前らは。思春期か。
「ロボットに返しに来させれば良かったやん」
「いや、貸したい本もあったからさ。ついでにオススメポイントも直接説明しておこうかと…」
エロ本のか。
阿保らしすぎて何だか力が抜けてきた。はあ~~と大きな溜め息を吐く俺に近付き、覗き込むように見上げてくるチビ。
近くに来るとますますチビだな。