深を知る雨


居間に入ってきた麻里は、楓、里緒、薫……そして私を見て、「あなたAランクだったのぉ?」と訝しげに聞いてくる。

「あ、いや!オレは遊びに来てるだけっていうか」
「何だよ底辺、知り合いか?」
「お、おう!」

いいだろ、私こんな美人と知り合いなんだぜ?と薫に誇らしげな笑顔を向けてやったが、鼻で笑われた。

「……まぁいいわぁ。急いでるしぃ、Aランク以外に聞かれたって仕方ないわね。単刀直入に言うと、相模くん今死にに行ってるのよねぇ」
「……は!?」
「まさかの自殺志願!?」

楓と私の声が重なった。

「相模くんが神戸の能力者育成所にいたのは知ってるでしょお?彼はこれから、その育成所の連中を全員殺そうとしてるのよ。上手くいけば捕まるだけだけどぉ、下手をすれば殺害されちゃうわぁ」

麻里は話しながら勝手にソファに座り、手を広げて自分のネイルを眺める。

「相模くんの妹は今もそこにいてねぇ。無理な超能力開発で脳に影響が出てるからまともな生活送れてないわぁ。育成所側は彼女に無理に刺激を与えては能力を発動させることを繰り返してる」
「……じゃあ、遊は妹を助けようと……?」
「それはもう無理よ。妹さんに関しては相模くんも諦めてるわ。せめて彼女が人ではなくなる前に、育成所を潰すのが相模くんの狙い。そうすれば他の犠牲者も救われるだろうしねぇ」

読心能力というのは、相手の脳に働きかける力だ。

本来なら情報を読み取るためだけに使われるものだが、Aランクレベルになると力の方向性を変えて相手の脳を破壊することができる。

自分の能力のことなんだから、それは遊も知っているだろう。

遊なら、武器無しで人を殺せる。

「本当は全て終わった後で話せって言われてたんだけどねぇ」
「……あいつは、何であたし達に頼らないのよ」
「わたしだって言ったわよぉ?戦力になる奴は連れていけって。でもあいつ、自分の問題だからあなた達を関わらせたくないみたいでねぇ」
「っによそれ!」
「あなた達を連れていったとして、最悪の場合全員死ぬのよぉ?それか、全員捕まるか。自分を相模くんの立場に置いて考えてごらんなさいな。そんな状況でお友だちを巻き込める?」
「……っ」

麻里はそこまで言ってもう用は済んだとばかりに立ち上がり、

「じゃ、そういうことだからぁ。どうするかはあなた達の勝手よぉ」

ひらひらと手を振って気紛れな野良猫のように居間から出て行った。




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