深を知る雨
《21:10 神戸上空》
飛行タクシーで育成所まで向かう。
きっと遊は気付いてない。今ここにいるのが、日本帝国に5人しかいない、世界的に見ても10人に満たないSランク能力者のうち3人だなんて。
普通に考えて無敵のメンツだ。
でもまぁ……相手を殺しちゃ駄目となると、このメンバーじゃちょーっと分が悪いかもなぁ。
生かしたまま倒すというのが1番難しい。
そもそも私たち軍人は相手を殺す技術を日頃から学んでるのであって、死なない程度に倒す技術は学んでない。
一也がCランク以下の人間を操って、私が育成所のセキュリティを突破し、小雪が無理な超能力開発を受けた子供たちを治す。
育成所にBランク以上の能力者がいないなら、これで簡単に事は片付く。
しかし、相手は世界最先端の日本の超能力開発をリードする育成所だ。
様々な高レベルエスパーがいるだろう。
そいつらと戦うとなると……ここにいる全員が攻撃型の能力者ではない分不利だ。
人数もあちらが上。
無理ではないけれど、辛い戦いにはなるだろう。
と。育成所に近づくにつれて、3つの人影がはっきりと見えてきた。
あれは……―――楓と里緒、それに薫だ。
飛行タクシーが育成所の前、言い換えれば3人の前に停車する。
驚いたのは私だけではないようで、遊は焦った様子ですぐ外へ出る。
「お前ら、何で……」
「俺はお前のためを思って放っておこうと思ったんだけどな?そこにいる底辺が俺の言うこと聞かずにお前の邪魔しに行っちまったからよ。1人行ったならもう何人行こうが同じだろ」
薫は遊に一歩近付き、びしっと指差した。
「お前いっつも言うよなぁ、俺に。“楓に心配させんな”って。―――そっくりそのまま返してやる。楓に心配させてんじゃねぇ」
薫も不器用だなぁ。素直に頼れって言えばいいのに。
「そうよ!あたしに心配させてんじゃないわよ!」
「……自分で言うか?」
怒気を孕んだ楓の声音に対し、遊は可笑しそうに笑う。
そして、やはりまだ男が苦手なのか小雪や一也から距離を置く里緒の方にも視線を向けた。
「里緒も来たんやな」
「……別に、暇だったし。あんたは僕が暴走した時連れ戻しに来てくれたし。恩くらいは僕だって返す」
デレてる~!里緒がデレてる~!何だよ、皆遊大好きじゃん。
「お喋りは手短に済ませていただいて、さっさと突入しませんか?」
感動的な雰囲気を容赦なくぶち壊す一也である。
まぁ、それもそうか。あまりぐずぐずしている暇はない。
「そうね、まずは軽く作戦を立てて……ってちょっと!?哀!?何普通に入っていこうとしてんのよ、早くない!?」
「中で何が起こるか分かんないし、作戦なんか今立てても寧ろ邪魔になるよ多分。ぶっつけ本番!」
ただ歩いているだけのように見せかけて、皆が通れるように入り口のセキュリティは今解除した。
その次のセキュリティも解除。
その次も解除。
解除。
解除。
解除。
解除。
解除。
解除。
凄いな、何重に仕掛けてあんのこれ。
日本トップクラスじゃない?さすがだねぇ。
……まぁ私の能力の前では無意味だけどな!さすが私!!
得意になっていると、後ろから一也が小声で注意してきた。
「あまり調子に乗ると失敗しますよ」
「……一也って読心能力持ちだっけ?」
あれれーおかしいな。読心能力持ってても私相手じゃ読めないはずなのにな!
「いえ、顔で分かります。鼻の穴開いてますよ」
「えええ!?」
思わず鼻を隠す。
か、一也、乙女相手になんてことを……!!
「すみません、冗談です」
「冗談かよぉぉ!」
ばしん、と一也の肩を叩いたその時、集中力が切れ、1つのセキュリティを解除し損ねた。
……あっ……。
『侵入者7名、侵入者7名、侵入者7名』
赤いランプが点滅し始める。