深を知る雨
「遊、このセキュリティって何!?どうなる!?」
「全職員に警告が行く。誰か来るやろな」
「ほら、言ったじゃないですか。調子に乗ると失敗すると」
「一也が鼻の穴開いてるとか言うからぁぁぁ!」
叫んだ直後、私たちを見下ろす形で上の階に姿を現したのは、赤い仮面をつけた男。
「フッハハハハハハ侵入者諸君!」
何か変態っぽいのが来た……。
警備ロボットが来てくれたら良かったのに、生身の人間じゃ操れないじゃん。
でも1人なら簡単に倒せるんじゃ?と思った矢先、仮面男の後ろからぞろぞろと虚ろな目をした子供たちが歩いてきた。
仮面男は上の階に立ったままだが、子供たちはゆらりゆらりとこちらに下りてくる。
「ここにいる実験体は全員、ミーの指示で動くよう細工しているんだ。ユーは能力者のようだが、この人数に勝てるかな?」
私は一也に近付き小声で聞いた。
「一也、子供たち操れる?」
「ある程度は。しかし大半は無理ですね。恐らくこの中の多くはBランクレベルの能力者でしょう」
……じゃあやっぱ戦わなきゃいけないってことか。できればいちいち戦わず先に進みたい。時間食うし。
どうにか道を作れないものかと考えていると、
「退いてて」
楓が私たちの前に一歩踏み出した。
直後ビュン、と大きな音がしたかと思うと、その場にいた子供たちが一瞬にして吹っ飛んだ。
……すっごぉぉ。かっけー。さすがAランク気流操作能力者。
「楓、子供は殺さないようにね!」
「死ぬほど高くには飛ばしてないわ。当たり所が悪けりゃその子の運よ」
おいおい……と思っていると、小雪が後ろから小声で「生きてさえいればどんな致命傷だろうと俺が治す。安心して」と伝えてきた。
頼りになるねぇ小雪クン。半殺しまでならオッケーってことかな?
っていうか、そうだ。私にはやるべきことがあったんだ。
「おいコラ底辺!こんな時に何写真撮ってんだ!」
「ごめんごめん、気にしないで」
子供と必死に戦ってる薫の隣でするには失礼な行為かもしれないが、これは必要なことだ。
パシャシャシャシャシャ。連写たのしーい。
「おのれ!」
仮面男が鉄骨を投げ飛ばしてくる。
しかし、里緒が能力で私たちに当たる前に鉄骨を弾き飛ばした。
仮面男、あの鉄骨投げるとか人間離れした怪力だな。能力か。
でもそれは命取りだよ。
「小雪」
「了解」
小雪が瞬間移動で鉄骨を仮面男の上に移動させる。
「グアッ!!」
鉄骨の下敷きになった仮面男は動けなくなった。
小雪は次に私を仮面男の前に移動させる。仮面男を殴って気絶させると、やはり子供たちも動かなくなった。
……よし、この場はとりあえず片付いた。
下にいる一也を見下ろし、指示を出す。
「一也、育成所内にいるCランク以下の人間は邪魔にならないよう一ヶ所に集めといてくれる?」
「既にやってます」
一也の能力の有効範囲は広い。
この育成所内にいる人間くらいなら、一気に操ることが可能だ。だから連れてきた。
これで残るはBランク以上。
Aランクはそうそういるもんじゃないから、実質Bランクとの戦いになる。
仮面男の端末をポケットから取り出し、能力を使って職員ページを開く。建物のマップが出てきた。
「遊、ここって2つの建物に分かれてんの?」
「西館と東館に分かれとる。東館は高レベルな能力者が生活しとるとこや」
「遊の妹ってどっちにいんの?」
「……西館やけど。どうするつもりなん」
「じゃあオレと小雪が西館。それ以外は東館へ行け」
遊がいればセキュリティを突破できる。遊と私が分かれれば二手になっても問題はない。
「お前ら二人で大丈夫なのかよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。西館の人らは殆ど一也の能力で一ヶ所に集まってるだろうし。東館の方はよろしくな~」
薫に軽く返事し、上に上がってきた小雪と二人で西館へ向かう。
―――さて、ここからが本番だ。