深を知る雨
「殺害とか何とか、物騒な単語聞こえたぞ。何が起きてんのか知らねぇけど、オレが何とかしてやろうか」
……………はあ?
「お前に何ができるねん」
「できるよ。事情さえ話してくれたらな」
簡単に言い切るチビに無性に苛立った。どうせ興味本位でこっちのことを知ろうとしてきているだけ。おもしろ半分でAランクの事情を聞こうとしているだけ。
―――Eランクのお前に何ができる?
「俺はいつも、他人を信用する前に相手の心を徹底的に読むで?そいつがどんな人間か、どんなことを考えながら行動しとるんかも」
人間なんてそう簡単に信用するものじゃない。それだけはあの頃から痛いほど分かっている。
「何も読めんような、得体の知れん相手を信用するつもりないわ」
心の底から言い切ってやると、チビは数秒ぽかんとして、その後眉を寄せて吐き出すように言った。
「黙れよ、ビビり」
「は?」
「怖いんだろ?人間に怯えてんだろ?相手が何であるか知っておかないと気が済まないんだろ?他の奴らが当たり前にできてることを、お前はできないんだろ」
チビは酷く冷たい目で俺を見上げてくる。月明かりがそれを照らし、何とも言えない不気味さを醸している。これまで一度も見せなかった本当の顔を見ている気がしてぞっとした。
「オレだって読心能力持ってるけど、人間関係を構築するうえでこの能力を使ったことはない」
「……だから何やねん。お前と俺を一緒にすんな」
チビは俺の返答にチッと舌打ちしたかと思えば、俺の胸倉を掴んで凄い力で壁に押し付けてくる。さすがEランク隊員、力業は得意なようだ。
「自分から言うか、オレに吐かされるか。お前には二択しかない」
睨みつけてくるチビを無言で見下ろすと、チビはついに怒鳴ってきた。
「助けたいのか助けたくないのかどっちだ!!」
人間には嘘を吐く、演技をするという能力が生まれつき備わっている。だからこのチビの必死な表情も演技かもしれない。
だけど、予感がしたのだ。
直感なんて当てにならない。
でもその予感は単なる直感とは少し違う気がした。
―――こいつなら何とかしてくれる。
何故こんなことを感じるのか分からない。
でも、気付けば俺は。
「………助けたい」
掠れた声でそう言っていた。