深を知る雨


 《21:50 西館》



ここにいる子供たちの保護は後で突入してくるであろう一般団体に任せるとして、私のやるべきことは一般の人々にはできない救助だ。

マップに表示されていた1番奥の1番広い部屋に、予想通り線に繋がれた女性がいた。

……もしかして、この人が遊の妹なのかな。

酷い有り様だ。遊を連れてこなくて良かった。

「小雪、この人治せる?」
「完全には無理だね。人工臓器は外せないし、何とか外の病院で寝た切り生活くらいならできるだろうけど……」
「オーケー、今から線切るから治したらすぐ近場の病院に瞬間移動させて」

小雪自身は移動できない。

後はその場にいる医療関係者の判断次第だ。

まぁ、さすがにこんな状態の女性が飛んできて何もしないようなド畜生はいないだろう。

遊の妹の頭に触れる。途端に彼女に流れている能力プログラムを感じた。

Kg7n4twUtm8.jp6cvkybg8wxpDabtlkgaw2tkpxgpnrb2Kyluxlnqb2yvnfyr3l2y48yyle2lwtjc8pxd2qvojwul60n4l5n4o1ov223o?d?y5vzxee.xoh3vysi--------……うえっ気分悪くなるわこんなん。

すうっと息を吸い、能力を使って遊の妹に流れる能力の波を負担にならないよう順々に遮断していく。

こりゃ時間掛かるなぁ……そろそろ一般人も集まってくる頃だろうし、早めにここを出たいんだけど。



―――と、その時。途中で自分の能力の出力が急激に下がるのを感じた。

…………何だ?

「相手が悪かったなぁ。こっちは長年能力者をデータ化してきた組織やで?侵入者さん」

こつりこつり。ハイヒールと床のぶつかる音がしたのでそちらを見ると、女性の職員らしき人物がこちらに銃口を向けていた。

……あれ、おねーさん一応一般市民なのに拳銃持ってていいんですかね。国の許可取ってるんですかね。

能力抑制電波かぁ。しかもこれ、遮断できない。

こっちが電脳能力者であることを予想して、電脳能力者にも切れないように細工したものを使ってるのか。

「その子から離れえ。今なら打たんといてあげる」

こつり。おねーさんがまた一歩私たちに近付く。

こつり。また一歩近付かれると、小雪が私を庇うようにして私の前に立つ。

私はそれを「大丈夫だから」と押し退けて、お姉さんに問い掛けた。

「おねーさん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「聞くだけなら構わんで?答えるかどうかは別やけど」
「人をこんな状態にして、おねーさんは何も感じないんですか。……もう、麻痺しちゃってるのかな」
「ふん、一般的に使われている実験動物をヒトにしたところで何が悪いって言うねん。同じ命やろ。マウスやモルモットより人間の方が大事っちゅうんは、人間を偉く見すぎとちゃうか?特にヒトに適用させる超能力研究の場合、実験動物としては、ヒトの方が遥かに優秀や。それを使って何が悪いん」
「……成る程、そういう考え方ですか」
「日本帝国が世界最先端の超能力開発を進められてるんは、こういう育成所があるからや。前に進むには必ず犠牲が必要やで、何事においても」
「あなたの意見も一理あります。でもごめんなさい。この育成所で行われていることを気にして、私の友達が苦しんでるんです。―――私は、友達に苦しんでほしくない。例えあなたが正しかったとしても」

警備ロボットがぞろぞろと部屋に入ってきて、おねーさんを囲む。

「……ッ!?な……どうして……っ!」
「そりゃあ確かに使いづらくはなりますけどね。この程度の抑制電波じゃ抑制もクソもないんですよ、私相手の場合」
「嘘や、この電波に打ち勝てるなんて、Sランク級の能力者しか……っ」
「よくお分かりで」

警備ロボが四方八方から内蔵された銃口をおねーさんの方へと向ける。

「能力抑制電波を切ってください。でないと今すぐ殺します」
「……っ」

そろそろ遊の妹さんに送られている能力の波は全部切れる。

その時小雪が瞬間移動能力を使えなかったから困る。

おねーさんがなかなか動こうとしないので、ロボットに肩を打たせた。おねーさんは肩を押さえて踞る。

「おねーさん、私は踞れとは言ってないんですよ。電波を切れって言ってるんです」
「このガキ……ッ」
「もう一発打たれたいですか?私成人してます」

おねーさんは震える手でポケットからリモコンを取り出し、何やら番号を入れてボタンを押した。




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