深を知る雨
《22:15 育成所前》
「いやー、終わった終わった!」
全ての職員を片付けてから合流した私たちは、物陰から周囲の様子を窺う。
騒がしいし、遠くにはオレンジ色の光と煙が見える。
火災まで起きてるみたいだ……この日本帝国でこんな派手な暴動を見ることになるとは。
「人、結構集まってるわね。どうすんのよ?顔見られるのはさすがにまずいわ」
「一也がどうにかしてくれるから大丈夫」
「はぁ……」
「そこ、あからさまに溜め息吐かない!まだまだ体力残ってるだろ!?」
「いえ、あなたは本当に王様のような人だと思いまして。はぁ……」
分かりやすくもう一度大きな溜め息を吐いた一也は、疲れた様子で前方を向く。
「――――退け。撮影もするな」
何百人と集まった人々が一也の一声で一斉に道を開ける様を見て、Aランクの皆は少々ぞっとしている様子だった。
飛行監視カメラの映像は私の手にかかれば簡単に消せるし、これでもう私たちがここにいたことを知る術はない。
人々が作った道を歩き、育成所と距離を取りながら、私は皆に言った。
「さて、やるべきことはあと1つだな」
「は?まだあるのか?」
「ったり前だろ?1番重要なこと忘れてんじゃねーよ」
「重要なこと……?」
「神戸観光だよ」
「……」
「……」
折角皆してここにいるんだから、観光しなきゃ損だよな~。
飛行タクシーで上から見てただけだけど、神戸ってイメージ通り異国情緒のあるお洒落な学術都市だ。
一度は来てみたかった!
「あの神戸育成所を潰しておいてこれから観光って……ほんと何なのかしらあいつ」
「ビビるってことを知らねぇんだろ」
「図太い……」
楓と薫、里緒がぼそぼそ何か話し合っているが、今はそれよりもどこへ行くかだ。
「まずはディナーじゃないですか?彼ら、食事を済ませていないようですし」
「は?お前ら飯食わんと来たんか?」
遊が楓たちを振り返ると、楓たちは親に怒られる子供のような顔で頷く。
えっほんとに食べてないの。お腹空いてる状態であんなパワーが出るのか、凄いな攻撃型のAランクって。
「この近くやったら……ベーカリーやな。奢るわ、わざわざこっちまで来てくれたんやし」
歩き出す遊に大人しく付いていく腹ぺこ状態の楓たちに私も付いていく。夜にこういう街来るとワクワクするなぁ、まさに夜遊びって感じで。
個性的なオブジェやユニークな建物が沢山あるのを見て写真を撮る私の横を、人々が通り過ぎて行く。
「聞いた?テレビ回復したって」
「聞いた聞いた」
「ネットニュースもいつものに戻ってるやん」
「“謎の電波ジャックにより神戸能力者育成所の秘密が暴かれる 全国一斉放送は誰によるものか?”やって」
「怖かったわー」
「日本でもこんなことあるんやねえ」
…………私にとっての1番の問題は、これが私の仕業だと泰久にバレるかバレないかだなぁ……。