深を知る雨
遊が連れてきてくれたのは、女性が好みそうなお洒落な靴屋さん。
想像していたよりも多くの靴がずらりと並んでいて、ルックス重視で作られたのであろう可愛いロボットが数台、店内を動き回っていた。
すごい!こんなに靴があったら足何本あっても足りない!
「どうしよう選べないよ!私ただでさえ買い物に時間掛かるタイプなのに、こんなにあったら余計選べないよ!」
「……しゃーないなぁ、お前に似合いそうなやつこの辺から適当に選んだるわ」
そういえば遊は私服十点満点のお洒落男子だった……!
こういう店のロボットにはお客さんの顔とスタイルを認識して自動的に似合う商品を選んでくれる機能があるんだけど、遊が選んでくれると言うならロボットに頼らなくていい。
遊は暫く棚の方を見ていたが、然程迷うこともなく一足の靴を手に取った。
無地のシンプルな赤いパンプスで、大人っぽいリボンが付いてる。ミドルヒールくらいかな?
座って履こうとしたところを、私より先に遊が屈んで履かせてきた。何だこのお姫様扱いは!
「……遊って自然にこういうことするんだね。モテるでしょ絶対」
「男しかおらん部隊におる奴に言うセリフか?それ。……ん、立ってみ」
私に靴を履かせて立ち上がった遊は、今度は手を差し伸べてくる。ほんとにお姫様扱いだな……なんて少し照れ臭くなりながらもその手を取って立ち上がると。
「……」
「な、なに」
「いや……こういう靴履いてもチビやなと思って」
「チビチビうるせー!平均身長だバカ!」
しみじみ実感するように頷く遊にまた腹が立って喚く私に、失礼なことにぶはっと吹き出した遊は、
「嘘やて哀ちゃん。機嫌直してや」
言い訳程度にこちらの機嫌を取ってくる。
……今思ったけど、こういうのってもしかして妹さんがいたからかな。靴履かせてきたのも手を差し出してきたのも、お姫様扱いと言うよりは子供扱いな気がしてきた。
「どーや?歩いた感じ。ちょうどええか?」
「…うん。歩きやすいよ」
実はヒールのある靴履いたことなくて慣れないけど、初めてだからこそテンション上がる。
「これと同じやつ包装してくれ」
『カシコマリマシタ』
ロボットが遊の一言で靴のデータを取り、店の奥へと入っていく。
私はお試し用の靴を脱ぎ、別のロボットに渡した。
私が元々履いていた靴を磨いていたそのロボットは、交換するようにして私の靴を返してくれた。
包装が終わるのを待っている間、二人で並んで椅子に座る。
「またお前に助けられてもうたな」
「へへん、当然のことをしたまでだよ」
「そりゃ、お前にとっちゃ軍の戦力になる奴を失いたくなかっただけなんやろうけど…」
「へ?」
遊の言葉に思わず頓狂な声を出してしまった。
「……あ、あぁ、うん、戦力!戦力ね!そうそう!」
慌ててこくこくと頷く。そうだ、そういえば遊はAランク……物凄い戦力なんだ。
そういう意味でも、今回は助けられて良かった。
私の反応を不自然に感じたらしい遊が不思議そうに見てくる。これは説明した方がいいか。
「や、なんか。今ちょっとびっくりして。私全然そんなこと考えてなかったなって。考えなきゃいけないのに」
「…“考えてなかった”?じゃあ何で俺のこと、」
「……一緒にたなべれすとらん行きたくて?」
ぽかん。
そんな言葉がぴったりの顔をした遊は、暫く何も言わなかった。