深を知る雨
「日本の国土に、立たないでください」
「俺が怖いー?まぁそっか。俺を見たらその国は終わりだって言われてるらしいね、他所の国では。でもまぁ今は戦時中じゃないし、それは当てはまらないよ」
「…何の用なんですか?」
「日本が大規模なサイバー攻撃を受けたって情報が入ったからさー、哀花ちゃんがいるのにおかしいなって思って。でも、寧ろ哀花ちゃんがやってたんだ?ダメだよ、下手に国を混乱させるようなことしちゃ」
私に絡まって凝固した血液が縄のように私の体を拘束していて、身動きが取れない。
「どうしてあんなことしたの?無理な超能力開発を受ける子供たちを助けたかった?あっまいなぁ哀花ちゃんは。反吐が出るほど甘い。優香なら絶対に見捨てるよ、“多少の犠牲”なんて。その方がお国のためだしね」
「あなたには関係ないでしょう」
「関係なくないよ。哀花ちゃんに何かあったのかと思ったじゃん。心配させんな」
「あ、なたに……!心配してもらわなくたっていい……ッ!」
「そーんなこと言われても、気になっちゃうのが親心だよー?“親の心子知らず”って、よく言ったもんだよねー」
ガッ、と、優しくゆったりとした口調とは裏腹に乱暴な片手が、私の首を掴んだ。
「なぁ、聞けよ。哀花ちゃんには、次の戦争まで生きててほしいんだ。でないと俺がつまらない」
今にもこちらを縊り殺してきそうな冷たい眼に、またぞくりと全身に寒気が走る。
「俺が哀花ちゃんを殺してあげるから。―――他の奴に殺されたら許さねぇよー?」
支配したいのだ、この男は。
私の人生を狂わせて、私の弱味を握り続け、あまつさえ私の生き死にをも支配しようとする。
「あとー、俺が近付いたからってすぐ逃げるのは感心しないな?ショックだったからあと1回いじめとくねー?」
「……ッ、」
ずしゅ。今度は血の矢が脇腹を攻撃してきた。
と同時に、私を拘束していた血の固まりが消えていく。
どしゃり、と地面に倒れ込む私と、くすくす笑いながら姿を消すクソ野郎。