深を知る雨



私はクソ野郎が消えた後も暫くその場に寝転がっていた。

幸い周囲に人がいないから、騒がれる心配はない。

刺された箇所に常時持っている止血用の塗り薬を塗りながら、地面に落ちた時どこかへ飛んでいった靴の箱を探す。

案外すぐ近くに落ちていた箱を拾い上げ、そっと開いて中を見る。―――靴は、無事だった。


「……ふっ……」


どうしてだか涙が出た。



私はさっきまで、なんて優しい世界にいたんだろう。

まるで普通の人間みたいに皆の隣を歩いて。

靴なんてプレゼントしてもらっちゃって。

友達と仲直りなんてして。



あいつと会う度思い知らされる―――私は罪人なのだと。

こんな、優しい世界を生きていていい人間ではないのだと。





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