深を知る雨
2200.01.22 ③
《23:15 Aランク寮》楓side
Aランクの皆とは、大体それぞれと性交渉をする曜日が決まっている。
今日はもう遅いが、一応遊とする予定の曜日ではあるので部屋へ向かう。
……まぁ、あの調子じゃ今後どうなるか分かんないけど、なんて思いながら部屋に入ると、普段あまり飲まない遊がベランダでちびちびお酒を飲んでいた。
「珍しいわね」
あたしもベランダに出て遊と一緒に夜空を見上げた。
寒さが身に染みる。
「酔うたら気分変わるかなと思ったんやけど」
「変わらないわけね?まぁ、そりゃそうでしょ。遊みたいなタイプの場合」
「……俺、何かおかしいわ。なんやあいつのこと考えるとしんどいねん。悩んでる時食事も喉を通らんとかよう言うけど、今は精液も尿道を通らん」
「ぶっ」
謎の表現に思わず吹き出してしまった。
遊って真顔でこんなこと言う人だったっけ?
「あんたあたしのこと好きじゃなかったんだ?」
「俺はお前の、思ったこと何でもズバズバ言うカッコいいとこ気に入っとった。今もカッコいいと思っとるよ。……でも、何でやろなぁ。あいつはカッコよすぎるんよな」
少し酔っているのか、今日の遊はよく喋る。
「ふ~ん。恋しちゃったわけねぇ」
まっさか遊が哀に惚れるとは、哀と出会った頃は考えもしなかったなぁ。
「恋、て」
「何よ、恋でしょ?」
「そんなお綺麗な感情やろか、これ。どちらかと言えば肉欲に近い気ぃする」
「何?そんなにセックスしたいの?」
「……したい」
「オス丸出しねー、逃げられるわよ?」
「逃げれらんように囲い込みたい」
あー、ダメだわ。
これかなり惚れ込んじゃった奴の目だわ。
今後は遊とヤることもなくなるかもしんないわね。薫や里緒がいるから欲求不満にはならないだろうけど、相手が一人減ることになる。
不意に外を見ていた遊がこちらに目を向けた。
「つーか、俺の気持ち気付いとったんやな」
「まぁ、そういうのには敏感だからね」
「じゃあ薫の気持ちにも気付いとるわけか」
「そりゃそうよ、態度見りゃ分かるわ」
「ぶっちゃけ薫のことどう思てんの」
「分かってるくせに聞かないで」
薫は昔から知る友達……とはちょっと違うかもしれないけど、少なくとも恋愛対象として見たことはない。
「……やっぱ、お前が好きなんは佳祐のままやねんな」
「ええ。多分一生ね」
「薫の気持ちには気付かんふりする気ぃか」
「酷いって言いたいの?」
「別に。応えられへんのやったらそうするんが最善やと思うしな」
気にはなっているようだが必要以上に口出しする気もない様子の遊は、また外に目を向けた。
と。
「……あいつ、どこ行っとるんや?」
遊が訝しげに眉を寄せたので、あたしもベランダから下を見下ろす。
薫が寮を出てどこかへ行く様子だった。
「急にどっか行きたくなったんじゃないの?」
「さっき神戸行ったばっかやのにまた出掛けるんか」
「確かめたいことがあるとか」
「……嫌な予感しかせん」
「そりゃ薫だってもう違和感抱き始めてるでしょ。哀に関して」
今日の哀を見てて、あたしでも色々気になったくらいだ。
解除コードを知らないはずの哀がどうして二手に別れて平気だったのか。
そして何より、今も騒がれ続けている謎のサイバー攻撃は誰がしたのか。
「哀って、何者なのかしらね」
「そういうこと、考えんといたれ」
「…どうして?」
「あいつはEランク隊員の千端哀や。見たまんまな。俺らは、そう思っとかなあかん」
「……何か知っちゃったのね」
哀のことをあたしより知っているらしい遊は、こくりと頷くだけで、それ以上何も言わなかった。