深を知る雨
……泰久が遠い。
この人の心は、この人が誰よりも羨望し恋慕しているあの人があの世に持っていってしまったのだ。
どんなに私がこの人を想ったって、この人には絶対に届かない。
「……私、そろそろ戻るね。お土産も渡したし」
小さくそう言って、早足でSランク寮を出た。
あいつに会ったせいだ。
あいつに会ったせいで、またこんな気持ちになる。
Sランク寮から出た途端、ぶわっと涙が溢れた。
あれれ、おかしいな。今日は泣いてばっかだな。
――「相変わらずだね、哀花ちゃんは」
ごめんなさい。
――「相変わらず、弱い」
ごめんなさい。
――「誰のおかげでSランクになれたと思ってるのー?」
―――あんな奴の手を取って、泰久の大切な人を、泰久から奪ってごめんなさい。