深を知る雨



「……何してんだ、こんなとこで」


めそめそ泣いていた時、驚いたように私に話し掛けてくる、聞き慣れた声があった。

しかし驚くのはこっちの方で、バッと顔を上げた勢いでドアに後頭部をぶつけた。痛い。

目の前にいた人物――それは、いつも喧嘩ばっか売ってくる薫だった。


「か、薫こそ何してんだよ!こんな時刻に!」
「先に俺の質問に答えろ。何してんだ。何で泣いてんだ」
「な、泣いてねーし!!」


ごしごし涙を拭くがもう遅い。泣いていたところはバッチリ見られてしまったらしく、はぁ~と薫が大きな溜め息を吐いた。


「お前、いつもうぜぇくらいヘラヘラ笑ってるくせに陰ではそうやって泣いてるわけ?」
「……別に、いつもじゃねーし。たまにだし」
「馬っ鹿じゃねぇの。涙ってのは他人に悲しみを伝えるためにあんだよ。隠れて泣いてどうすんだ」
「……違うよ。涙っていうのは副交感神経を活発にさせて自律神経の乱れをだなぁ……」
「あーハイハイうぜぇうぜぇ。お強いSランク様方にいじめられたか?まぁ底辺だから太刀打ちできねぇよな、そりゃ」
「そんなんじゃねーし!ほ、ほんとにいじめられたとかじゃなくて、オレが全部悪くて、」
「――お前、怪我してるだろ」
「ほええ!?」
「動きで分かる。右腕と左足、それと……脇腹もか?」


全部言い当てやがったこいつ、外から見ても分からないはずなのに。


「西館でやられた、ってわけじゃねぇよな。少なくともあのビル行くまでは普通だったし」


こ、こええ。こええよこいつ。何で見ただけでそこまで分かるんだよ、関わりたくない。




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