深を知る雨
《13:00 Aランク寮前》
「ふんふんふっふ~ん」
「……そんな嬉しいんか」
今日の午後はまたパレードの合同練習だ。
呆れ顔の遊と二人でグラウンドに向かいながら、私はずっと鼻唄を歌っている。
そんなに嬉しいかって?そりゃ嬉しいよ。だって―――私の薦めた大中華帝国大人気アイドルグループのセクシーダンスをAランク隊員が踊ってくれることになったんだから!
それはつい先程の昼休憩の時間、Aランク寮に遊びに行った時のこと。
「あーあッ!折角調べたのにな~!薫がこれまでの行いでどん底まで下げたAランクへの好感度上げようと思って調べたのにな~!やってほしかったのにな~ッ!」
「ここ来る度に文句言ってんじゃねぇよ!」
「だって見たかったんだもん!!」
「……そんなにしてほしいん?」
「そりゃなっ!こっちとしても頑張って選んだんだからなっ」
「選んでなんて頼んでねぇしお前Aランクでも何でもねぇだろうが!」
「ほなやろか」
「はぁぁあ!?」
「折角調べてくれたんやし」
「おい、おいおい遊、お前何か哀に甘くなってねぇか?分かってんのか?投げキッスとかしなきゃなんねぇんだぞ?」
「こいつがこのダンスやってほしいって言うんやからしゃあないやろ」
「やっぱ甘くなってるだろ!お前だって最初は嫌がってたじゃん!?」
「あれは嫌がってたんやなくて俺はどうせ参加できへんやろうと思ってやな…」
「嘘吐けえええええ」
遊が不満そうな薫を半ば強引に納得させたので、私の希望通りにしてもらえることになった。
里緒は別に何でもいいみたいで、然程抵抗しなかった。
っあ~~!楽しみだなぁ!いや、あれだよ?別に私が見たいとかではなくて大中華帝国の国民がよく知る曲を踊ることで親睦を深められるかもっていう至極真面目な考えがあってのことだよ?
「……お前、俺らのことばっか気にしとるけど、Eランクのパフォーマンスはどないなっとるん」
「あ、それなんだけどね!遊が買ってくれた靴、早くも役に立ちそうだよ」
Eランクでは二人組を作り片方を男性役、片方を女性役に分けることになった。
私はくじで男役というのが決まったのだが、他の隊員に「お前は女役だ!女顔だから!」と言われ女役になった。くじの意味ィ……。
「パフォーマンスで女の格好しなきゃいけないんだけど、ドレスの色は選ばせてもらえることになってね?自分の靴があるなら新しくダンスシューズ注文しなくていいって言うし、靴と合わせて赤にしたんだ!」
「……お前それ、女やってバレかねへんのちゃうん。ただでさえ女顔やのに、そんなカッコしたら一発やで」
「だいじょーぶだいじょーぶ、他にも女顔な人はいるし。ていうか、この話楓たちにもしようと思ってたのに言い忘れちゃった。……今日の楓よそよそしくない?私と遊が一緒にいたらすぐ薫とか里緒の方行っちゃうじゃん」
今だってそうだ。薫、里緒、遊、私で一緒にグラウンドへ行こうかなって思ってたのに、楓が薫や里緒と話し込んでたから遊と二人で行くことになった。
「あー、それは……」
遊は何か言いかけて、しかし私の顔を見て1度口をつぐむ。