深を知る雨
「……だってさ。ここでお別れだね」
「……そうやな」
さっきまでキスしようとしていた分妙な空気が流れたが、ここで時間を食われている場合ではないので走り出す。
移動車は全部使われてるだろうから、自分の足で早めに行っておいた方がいい。文明の力に頼りすぎないようにしなくちゃね。
軍事施設の上空に出来始めている薄い膜は雨を防ぐための屋根だが、まだこちらまでは届いていない。
濡れないためにも早く行かなきゃ、と走っていた―――その時だった。
「ゲッ」
「っはは、反応が正直だな」
大きな紺色の傘を差した紺野司令官と遭遇してしまった。
やべえよ、偉い人に対してゲッて言っちゃったよ。
「先程小雪くんの方に伝えてくれと頼んだんだが、冗談じゃないと断られてね。どうやら彼はどうしても僕と君を関わらせたくないようだから、こうして直接君に用件を言いに来た」
「……何でしょう?」
「練習が終わったら司令室に来なさい。とても重要な話がある」
「……はあ……重要な話、ですか」
嫌なのが伝わったのか、紺野司令官はククッと大人の色気を感じさせる笑いを漏らし、少し傘を傾けた。
「入るかい」
「は?」
「傘。持ってないんだろう」