深を知る雨

2201.02.13



 《12:00 軍事施設外》


日中合同軍事パレードまであと2日。

パレード開催に向けて、多くの大中華帝国軍人が朝からこちらへやって来ている。

低音でゆっくり話される中国語が色っぽくて好みなので、すれ違う時はこっそり聞き耳を立てた。

ティエンはこちらにいる時基本的に日本語を喋るから、ちゃんとした中国語を耳にするのは久しぶりだ。

パフォーマンスの練習にも余裕ができ、何とかパレードの実現が近付いてきたこの日、私たちは。―――約束通りたなべれすとらんにやってきていた。


「…………つーか、何でお前らまでおんねん」
「ったりめーだろうが!千代さんが営業再開してんならもっと早く言えよ、来るに決まってんだろ!」
「正式に営業再開してるわけじゃないよ、その辺間違えないでおくれ」


今回は私と遊だけではなく、薫、里緒、楓――Aランク寮の面々もいる。

薫は戦前のたなべれすとらんの常連だったようで、私たちが行くと言ったら張り切って付いてきた。

千代さんも千代さんで文句を言いながらも全員分の昼食を作ってくれている。

私、遊、薫の順で並んで座り、正面には里緒と楓が並んで座った。


「っは~、ついに明後日かぁ」


パレード自体は楽しみだけど、紺野司令官に言われた一件があるからなぁ……。

そもそもこの国は警備をロボットに任せすぎなのだ。

今回は国家の一大イベントだから警備のプロも多少は出動するだろうけど、どうしてもロボットの方が優秀だという意識は根強い。

機能面ではそりゃそうなのだが、人間とロボットのどちらが乗っ取られやすいかと言えば後者だと私は思ってる。

犯人が本気で爆破を起こすつもりならまずロボットを自分の物にしようとするだろうから、警備ロボに何らかの異常があれば私の端末に知らせが来るよう細工しておいた。

私とその他数十名程度の警備のプロ、そして大量の警備ロボで爆破を防がねばならない。その中でも爆破予告の件について知らされているのは私だけ。

荷が重いなぁ、なんて思っていると、楓が水を入れながらふと私に聞いてくる。


「あんたの幼馴染み2人は何するのよ?パフォーマンス」
「あー、あいつらはSランクとしては表に出ねーよ。歩く国家機密だし」


顔が割れたらまずいし、泰久たちはこの手のイベントにはまず参加できない。精々見物するくらいだろう。


「ふーん。まぁ、Aランクまででも十分面白そうよね。楽しみにしてるわよ?セクシーダンス」


楓はまだダンスのチョイスに不満を抱えているであろう薫をからかうようにチラ見し、クスッと笑う。

薫はちょっと不服そうな表情をしたが、楓相手に「うるせぇ!」とは言えないらしく、結局黙ってそっぽを向いた。

私相手だったら「うるせぇてめぇが言い出したせいで俺は何かと面倒なダンス踊る羽目になったんだよふざけんなクソ底辺土に還れ」くらい言いそうなもんだけど、そこは惚れた弱味というやつだろう、薫は楓に強く当たれない。


「午前に顔合わせた将官佐官は若いのばっかだったな」


棚にあった雑誌をペラペラ捲りながらぽつりと言う里緒。

へー、Aランクはもう大中華帝国の将官たちと顔合わせたんだ。


「日本と違って超能力重視で階級決めとるらしいからなぁ」
「5、6年前上将が内戦で死んでから、ガキがずっと上将と中将を兼任してるって聞いたぞ。確か今15歳なんだろ?」


ティエンのことだ。よく知ってるな薫。

私もちょっと信じられないんだけど、あいつちゃんと指揮とかできてんのかな。



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