深を知る雨
「へー、どんな子なのか見てみたいわね」
「つっても今回は来てないみたいだったぞ」
「まぁ上将兼中将やねんからそら忙しいわな」
……私の部屋にいるんですけどね。
大中華帝国の将官佐官は皆知ってる。
知らないふりするのも面倒だし、この話を続けられてもどう入っていっていいか分からないので、話題を筋肉の話に変えることにした。
「つーかオレ最近なかなかの腹筋できてきてさぁ~こりゃシックスパックも夢じゃねーぜ」
「ハイハイ腹出てねぇアピールご苦労さん。どうせぽっこりお腹なんだろ?」
「はぁっ!?ちげーし!ガッチガチだし!見たことないくせに知った風な口利いてんじゃねえ!」
「服の上からでもわかんだよ、このヒョロヒョロが」
「ヒョロヒョロ!?ヒョロヒョロって何!?ほぼ毎日訓練受けてるEランク隊員に向かってこの……!そう言う薫こそ腹筋あんのかよ!?ヒョロヒョロなんじゃねーの!?」
「あぁ?お前見たことあんだろうが、忘れてんのか?俺の肉体美に衝撃を受ける余り記憶飛んだのか?ん?」
「ッ……そういえば薫はバリバリの細マッチョなんだった……ッ!クソッ……!」
「ハッてめぇみてぇなヒョロヒョロ野郎は一生俺の腹筋には辿り着けねぇだろうな」
「まだまだこれからですぅ~!これからマッチョになるんですぅ~!!」
「俺を挟んで喧嘩すんなや……」
薫と言い争っていると、間にいる遊にげんなりされた。
興奮の余り椅子から離れた尻を元に戻し、落ち着いて水を飲む。いかんいかん、挑発に乗っては。ここは人の店だ。
と。千代さんがふわふわなオムライスをお盆に乗せて持ってきた。
さっきから思ってたけどめちゃくちゃ良い匂いがする。
「うっまそおおお……」
「チーズデミグラスソースオムライスだよ」
順番にお皿をテーブルに置いていく千代さん。
この店ではやはりロボットを使わないらしい。お腹が空いていたこともあり勢いよく口に運んでいると、スプーンに乗せたオムライスが膝にぼたっと落ちた。
「あーあー、何やってんねん。子供か、お前は」
隣の遊が呆れながらもテーブルに置かれていたティッシュを取って渡してくれる。
やっぱオカンっぽいよなぁ、と思ったけど、それを言うとまた不機嫌になるかもしれないので「あんがと」とだけ言って受け取った。
「……うまいな」
どんなことにも酷評する里緒も、今日は珍しくオムライスを褒めている。
里緒といえば、最近里緒は私のことを2メートル以内に入れてくれるようになった。多分、私の存在に慣れつつあるんだと思う。
これをきっかけに他の男も平気になってくれると嬉しい。
「オレと里緒が親友になる日も近いな!」
「はぁ?」
「ヒッ」
ドスのきいた声で聞き返され思わず震えた。こ、こええ。こええよ里緒。
「そ、そんなに嫌?オレと友達になるのそんなに嫌!?」
「あんたと僕が友達……?は……?」
そんっな有り得ない生き物を見るかような目でこっち見てこなくてもいいじゃんかよ!
「里緒、そんなに全面的に拒否しなくてもいいじゃない。こいつ結構いい奴よ?変態だけど」
「少なくとも無理矢理お前を襲ったりはせんと思うわ、変態やけど」
「こいつはグラビアアイドルにしか興味ねぇから大丈夫だ、変態だけどな」
「どうしても無理なの?仲良くなるの。変態だから?」
いちいち一言余計な3人の言葉を黙って聞いていた里緒は、にこりと可愛らしく笑う。
「 無 理 」
……どうやら私と里緒が友達になれる日は遠いらしい。