深を知る雨
食事を終え、じゃんけんで負けた私は食器を千代さんの元へ運ぶ役目を負わされた。5人分の食器をお盆に乗せて奥まで持っていく。
千代さんは椅子に腰をかけてテレビ番組を観ていた。
「ありがとうございます!美味しかったです!」
元気よくそう言ってお盆をキッチンに置くと、千代さんは視線だけを私の方へと向ける。
「お前、男のふりしてるんだね」
アッ……前来た時は女として振る舞ってたんだった。超能力部隊の服装のまま来たし、さっきまでオレオレ言ってたから、もう誤魔化しようがない。
「……はい」
千代さん相手に隠そうとしても仕方ないと思い、正直に返事する。
「何か事情があるわけか」
「……はい」
「お前、死ぬつもりなのかい」
「……はい?」
「舐めてもらっちゃ困るよ。こちとら戦争に駆り出される軍人を何度も見てるんだ。色んな奴がいた。絶対に勝って戻ってくるという顔をしている奴や、もう無理だろうという顔をしている奴。ちょっと旅行に行ってくるような感覚で気楽にいる奴。……お前はどれにも当てはまらない」
千代さんはテレビを消して、体ごとこちらを向いた。
「戦争に私事を持ち込む奴の顔だ」
ぞくり―――年を重ねた者の迫力だろうか、こちらの何もかもを見透かされているような気がする。
立ち上がり、黙っている私の傍まで来た千代さんは、ぽん、と私の頭を撫でた。
「もうすぐ戦争が始まる。もう会えなくなるかもしれない大切な人に、思う存分会っておきなさい」
その目は、こちらに同情しているような、何かを気付かせようとしているような、そんな目だった。
「大切な人に大切にされていることを知れば、人は自分を粗末にできないからのう」
フォッフォッフォ、とでも表現できそうな笑い方をした千代さんは、代金を受け取るために皆のいる方へと出ていった。
―――どうしてバレてしまったんだろう。
千代さんの言葉を反芻した私は、暫くその場から動けなかった。
男のふりをしていることよりも重大なことを、千代さんはあっさりと言い当てたのだ。
……“死ぬつもりなのかい”、か。
「見抜かれたのは初めてだなぁ」
素直に感心した私は、肩を竦めてクスッと笑った。