深を知る雨
それはある昼下がりのこと。
西の民族との対立が激しくなり、予定にない将官会議を開いた―――のだが、連絡は届いているであろうにも関わらず、参加したのは佐官を合わせた6名中3名、全体の半分だった。
普段から真面目な女佐官チュンメイと、国内の状況に危機感を抱く男将官タイラン、そして取り敢えず参加しているだけの男佐官ミンヤン。
半分も参加しているのだからいい方だ。
動かずにはいられないいつも元気なミンヤンは兎に角気紛れで、会議に参加するのがチュンメイとタイランのみの時だってある。
参加していないリューシェンは恐らく女とお楽しみ中、マセ餓鬼なリーはいつもの如く上海でお買い物、ティエンは単に面倒だから来ていないだけ、と、タイランは予想。
政府がほぼ機能していない今、軍の今後の動きは自分達が決めなければならないというのに。
「西部民族の政府への反発にどう対処すべきか、というのが今日の議題よ」
綺麗な黒髪を1つに纏め、眼鏡を掛けて話し始めるチュンメイは、見るからに真面目な女性だ。
タイランは茶を飲みながら淡々と答える。
「西部民族を殲滅するしかないだろう」
「殲滅……随分過激じゃない?そこまでする必要あるの?押さえ付ける程度でいいと思うけれど」
「次の大戦がいつ起こるか分かったもんじゃないだろ。不安の種は少しでも潰しておいた方がいい」
「ハァーッ!?ついこないだ終わったばっかだろ、戦争!何でまた戦争の準備しなけりゃなんねーんだよぅ!」
ミンヤンが大きな声を出したが、戦争がまた起こるであろうとは実際多くの国で言われている。
敗戦国も先勝国も現状に満足していないのだから。
「……この世界も終わりね」
渋い顔でぽつりと言ったチュンメイの言葉に、タイランは僅かに首を縦に振り同意を示す。
生物の歴史から見ても、繁栄した生き物は必ず滅びている。
人類だって、愚かな行為で自らを滅ぼさないとは言い切れない。
他の生き物は平穏の為に戦うというのに、人は利益のために争う。
「今後は殲滅戦に向けて動きましょう。今日は忙しいから、私はこれで退散させて頂くわ。あとはお2人でどうぞ」
「いや、お前がいないなら続ける意味はない。方針が決まっただけでも十分だ」
「いいのかぁ!?他の3人いねえのに勝手に決めちまって!」
何気に失礼なことを言われていることには気付いていないミンヤンの質問に対しタイランは、
「会議にも参加しないような、やる気のない連中に合わせてたら国が滅びるだろ。お前が今すぐに他の3人をこの場に連れてこられるなら話は別だがな」
苛立ちを孕んだ声音でそう返した。
「………そ、そうだな!!」
いちいち声が大きいミンヤンを冷めた眼で見ながら、チュンメイはタイランに他の用件を伝える。
「タイラン、3時に客が来るらしいから案内してもらえる?悪いけど私は忙しい」
「客?」
「政府からの回しモンよ。軍の現状を視察したいってとこでしょ」
チュンメイはテーブルの上に並べられた料理の一部をタッパに詰め、席から立ち上がった。
タイランはチュンメイの存在にいつも助けられていた。
彼女がいなければ実質1人で多くのことを決めなければならなくなる。
そんな状況は、優秀なタイランからしてもさすがに手に余るのだった。