深を知る雨
2201.06.10
2201年 6月10日
イタリィ軍のフーランス侵攻を発端として
第四次世界大戦が幕を開けた。
《15:00 Sランク寮》一也side
泰久と共に軍服を着用し、出発の準備をする。
泰久の表情はいつになく真剣だった。
「やる気ですね、珍しく」
「珍しい?」
「8年前はそれだけ意気込んではいませんでした」
「今回はさっさと終わらせたいからな。早急に沈める」
「あなたが言うと笑えないですね」
苦笑いしながら付いていくと、ふと泰久が、端末を開いて浮かない顔をした。
……ったく、1日何回確認してんだよ。
「残念でしたね?哀花さんから連絡来なくて」
伝言を伝えることには成功したようだが、哀花さんから僕たちへの連絡は一切無かった。
無視されたと言っていい。
泰久としては期待しただろう。
あれほど自分を好いていた相手に好きだと言ったのだから、すぐに返事が来ると思っていただろう。
こういう落ち込んでいる泰久を見ていると、少し意地悪なことも言ってみたくなるものだ。
「もしかしたら、既に心変わりしてるのかもしれませんね」
「……は?」
「ほら、哀花さんを迎えに来たあのガキとか、哀花さんのパーソナルスペースに無遠慮に入っていってたじゃないですか?ただならぬ関係ですよ、あれは」
――――バキッ、と音がしたので、思わずドン引きながら泰久の手元に視線をやる。
「…………何握り潰してるんですか。その握力はさすがに引きます」
僕より比較的華奢なわりに力だけは無駄にあるのだから気持ちが悪い。
その馬鹿力に似合わず幼さを感じさせるぶすっとした表情になった泰久は、不満げに呟く。
「あいつ、俺の心弄んだ」
プレイボーイに捨てられた女みたいなこと言ってんじゃねぇよと思ったが、気持ちは分からんでもないのでそっとしておいてやった。
何が“一也がどうしても私を欲しいならくれてやる”だ。
何が“私たちの傍にいて”だ。
てめぇは僕を置いていったじゃねぇか、嘘つきめ。
……そんな嘘つきが生きて帰ってくることを信じて待とうとする僕も、どうかしている。
「帰ってきたらいくら恥ずかしがろうが泰久の前でぶち犯してやる」
ぼそりと呟いた独り言は、幸いにも泰久の耳には届かなかった。