深を知る雨
2201.07.01 ②
《20:00 中央統括所》泰久side
半島から日本帝国へ戻った俺は、紺野司令の元に戦況の報告をしに行った。
紺野司令は聞いているのかいないのか、気のない返事をするばかりでこちらを見ようとはしない。
だがこの人のことだ、こう見えて全て聞いているのだろう――そう信じて報告を続ける。
「総合的に判断して、このままいけばこちらの圧勝でしょう。……ただ」
不可解な点が1つあった。
「つい先日、原因不明の機内火災により1つの部隊が全滅しました。同様の事故が相次いでいます。戦わずして負ける、といいますか」
「……ほう?」
やはりきちんと聞いていたらしい紺野司令は、目を細めて新聞からこちらに視線を向けてきた。
そして、ククッと愉しげに低く笑う。
「――やはりな。面白いじゃないか」
……“やはり”?
「何かお心当たりでも?」
「気付いていないのか?あれのよくやる手じゃないか。何が目的だか知らないが、今回はあちら側にいるわけだ」
「……おっしゃる意味が分かりません」
あれだのあちら側だの、紺野司令がそれらの代名詞で何を指しているのか一向に読めてこない。
しかしそんな俺の様子を見ても、紺野司令は機嫌良さそうに笑みを深めるばかりだ。
「意外だな、泰久くん。君はもう少し色んな角度から物事を捉えられる人間だと思っていたが」
「はあ……」
やはり何のことか分からず力ない返事をした時、誰かの声が頭に響いた。それは過去の記憶だった。
――「寝ぼけないでよ、泰久」
――――どうしてこんな時に思い出すのだろう。
――「そっちはあたしじゃないわ」
――――ずきずきと頭が痛み始めた。
「驚いたな。本当に分かっていないのか」
何かが違うと、何か見逃していると、俺の頭が五月蝿い。
「君は、橘優香が生存している可能性をただの1度も検討しなかったのか?」