深を知る雨
2201.08.20
1つの時代が終わりを迎えようとしていた。
2201年8月
第四の権力と呼ばれるジャーナリズムによって、
8年前の戦争の秘密が暴かれ始める。
国家にとって都合の悪い最高機密文書の内容が、民衆に公開された。
秘密工作
債務保証
不正選挙
協定違反
議会や国民への嘘
それら全ての秘密を知った時、
多くの国民は一転して戦争反対派として
動き始めた。
《8:00 イタリィ》エフィジオside
『勝てないと知りながら若者を戦場へ送った!』
『世界平和のためリーダーシップを取ろうと言ったあのスピーチの前日に、大戦への軍の関与を検討しろと軍事行政組織へ命じていたんだ』
『何十年も我々国民は欺かれてきたわけです』
『大統領は三代に渡って戦争には関与していないと発言していた。どいつもこいつも嘘つきだ』
『国家のために何故死ななければならない?争わなければならない?』
『私の夫はまだ戦場にいるのよ!今回の戦争も8年前の戦争も、結局は同じことを繰り返しているだけじゃない!どうしてくれるの!』
『判断を誤ったのなら今正すべきです。統治者のための戦争であってはならない』
どのテレビ局も、偏った意見ばかりを放送している。
おかげでどの国もパニック状態だ。
「タイミングが良すぎなあい?」
ソファに寝転がるルフィーノが、退屈そうに言う。
「各国を争わせて疲弊させ、後戻りできなくなったところで内部から崩壊させる。この世界をぶっ壊せるように、誰かが仕組んでいるようにすら思うねえ」
以前、アタシが考えたこと。
現代の常識を覆す人間。
破滅の道へと進む世界を、力ずくで押し戻す人間。
そんな人間がもし本当に現れたら、と考えた。
もしかしたら今、この世界が動いているのかもしれない。アタシの想像していたものとは全く違う方法で、この世界は平和へと向かっているのかもしれない。
「自分のことだけを考えて生きていける人間なんて、ありふれているようでいて稀だからねえ。大抵の人間には人生を歩んでいくうちに大切な存在ができちゃう。その大切な人間を守らなければならなくなるし、守るために死ねなくなる。ねえエフィジオ、今この戦争に巻き込まれている人間の内の何人が、“自分だけのために”戦っていると思う?おそらく指で数えられる程度だと思うよお。彼らはただ己の欲を満たそうとしているようでいて、本当は誰よりも平和を、美しい人生を望んでいる。――もしかしたら本当に、変わるかもしんないねえ。世界」
多くの人間は無関係の人間を殺したいとも思わないし、戦って死にたいとも思わないはずだ。
どうしようもない時があるとするならば――それは、大切な人や愛している人たちに、危害が及ぶ場合だろう。
そんな人間を少し刺激してやれば、誰もが本来の目的である戦争の終結を望み始める。
あの日の星は、一体誰を表していたのだろう。
《21:00 大中華帝国》
限界を感じていた。
日に日に戦況が悪化する。
不自然なくらい綺麗にどの戦闘でも負けていく。
――どうして私は、お姉ちゃんでもできなかったことが、自分に成し得ると思ったのだろう。
その後悔は、隣に相棒がいるこの場では吐き出せない。
私の目的は果たされないだろう。
日本帝国は戦争に勝てないし、私は死ぬことができない。
――けれど、それで良かったと思うのだ。
自分の罪を受け入れて開き直ってしまえるくらいには、私は悪人になってしまった。
ならばせめて、この戦争が終わるまで。
“生きて帰る”ことを目標に、私は戦おう。