深を知る雨
《15:00 訓練所》雪乃side
第四次世界大戦から約5年、世界では軍縮の動きが高まっており、日本帝国も例外ではない。
超能力部隊の建物も一部なくなることになった。
ここで生活していた人は全員引っ越さなくてはならない。
「よー澤兄妹!お前らいつも一緒だなー」
「まぁ妹こんな可愛けりゃなぁ。俺の妹なんかほんと生意気で手に負えねぇぜ?」
「退いて。俺は荷物取りに来ただけでお前らに絡まれに来たわけじゃない」
「ギャハハハハ!相変わらず冷てーの!」
兄様の他人への冷たい態度は見ているこっちがひやひやするレベルなのだが、どうやらそれがウケているらしく、兄様はCランクの人気者だ。
「おっ、アルバムみっけ!」
引っ越しのために訓練所に置いてあった荷物を整理していた隊員の1人が、棚の奥から1冊のアルバムを取り出した。
戦後そういった物は戦勝国に殆ど没収されてしまったから、残っているのは珍しい。
兄様は興味なさげに黙々と荷物を整理しているが、私は少し気になったので一緒に見せてもらうことにした。
「やっべー、この辺の記憶全然ねぇわ」
私もだ。軍ならではのイベントを楽しむ隊員の姿が写されているが、軍に関する記憶は消されてしまっている。
どの写真もピンと来ない。
隊員たちがこんなに楽しそうにしているイベントのことを忘れてしまったのは少し悲しく思う。
「いつまで見てるの」
荷物を纏めたらしい兄様が覗き込んでくる。
早く帰ろうという意味だろう。
確かに、思い出せもしない過去の写真を見たところで何も始まらない。
そう思って立ち上がろうとした――その時だった。
「あれ?この子誰だ?」
あるページに、女装した隊員たちの集合写真があった。
真ん中に、赤いドレスと赤い靴、赤い口紅を塗った女性が立っている。
ぐらりと、視界が揺れた。
吐き気がするほどの情報が、一気に流れ込んでくる。
「兄様……この人……」
「……うん」
兄様も、私と同じことを思い出したらしかった。