深を知る雨
休憩所に着くと、向こうにいた時はあまり吸えなかったのか「はー、やっと吸える」なんて言いながら煙草を取り出す小雪。中毒者さながらだが、もう何も言うまい。
「小雪さー、もしかして金持ち?最近煙草の税金やばいほど高いじゃん?」
「あー、まぁ、実家の方が有り余る程金持ってるからね。定期的に端末に送られてくるんだよ。貰えるもんは貰っとこうと思って受け取ってるから、お金には困らないかな」
「ほえー。小雪の親って優しいんだなー」
「んー、ちょっと違うかな。親とは殆ど会ったことない。お金が送られてくるのは元々そういうシステムになってるっていうか…ちょっと、説明しづらいんだけど」
「会ったことない?親なのに?」
「血縁者とは引き離して育てるのがうちの慣例みたいなもんでさ。子供の頃から近しい家族にはあまり会ってない」
「変な家だな!」
素直な感想を述べると、小雪はふはっと笑う。
「はっきり言うね」
おっと、私にも一也のが移ってきたのかな?
「うん、まぁ、その通り。―――うちは変だよ」
そう言って煙草を銜える小雪の目がどこか遠くを見ている気がした。
自販機でオレンジジュースを買って小雪の隣に座ると、小雪が甘えるようにもたれ掛かってくる。重い。
「哀は何かあった?俺のいない間に」
小雪のいない間……強いて言うなら、Aランクの人と多少会話するようになったってことくらいだ。特には何も無い。
「言うほどのことはないかなぁ」
煙草の匂いを感じながら、私も小雪にもたれ掛かる。このままちょっと寝ちゃおうかな、最近中国で夜遊びし過ぎてあんま寝てないし……。
そう思って目を瞑った時、タイミング悪く端末がメッセージの受信を知らせてくる。
仕方なく体を起こし、小雪に見えない角度で画面を開くと、
〈ティエンがまた味方の戦闘機を壊した。来てくれないか〉
メッセージはよく知る中国の将官からだった。元は中国語のメッセージだったんだろうが、端末の機能で日本語に翻訳されている。
ティエンという文字を見てすぐ、面倒なクソガキの顔が頭に浮かんだ。あのクソガキは、私に構ってほしい時に限って問題を起こすのだ。軍事同盟国になった以上、中国にもより高いレベルの軍事力を付けていってもらいたい。
あいつはそれを分かっていて、私の目標を邪魔する形で問題を起こそうとする。
連絡が来るほどということは、おそらく今回壊した戦闘機もその辺のものではなく、かなり良いものだったのだろう。
もう一度メッセージを読み返し、私は深い溜め息を吐いた。
私はあいつの保護者じゃねえっつうのおおおおお。
そう叫びたかったが、隣に小雪がいるため我慢する。