深を知る雨
《22:30 上海》
かつて魔都と呼ばれていた中国経済の中心地・上海は、商工業都市として現在も栄えている。そんな人の多い場所に私を呼び出した世界最年少のSランク能力者であるティエンは―――
「あ、やっと来たァ」
ふざけた格好をしていた。
私服のティエンと会うなんて久しぶりだから、軍服を着ていないこの男のファッションセンスがすこぶる悪いことなんてすっかり忘れていた。
「……0点」
何をどう考えたらそんな真っ黄色のTシャツに虹色のズボン掃こうと思うの?季節にも合わない薄着だし。個性的な人が沢山いる場所だから目立たないとはいえ、ちょっと郊外に出たら注目の的になることは間違いない。悪い意味で。
「何でそんなバリバリプライベートの格好してるわけ?」
「そりゃプライベートだしィ」
「私はお前の問題行動について真面目な話をしに来たんだから、とりあえず服脱いでくれる?真面目に話そうと思ってもその奇怪な服装が視界に入って笑いそうになる」
「鈴なら、……いいよ」
「何故頬を赤らめるやっぱり脱ぐな」
上海の夜は世界中の旅行客をも魅了するらしく、夜でも中国人だけでなく沢山の外国人が出歩いている。中国唯一のSランク能力者の軍人がこんな街中をふらふら歩いてるなんて、きっと誰も考えていないだろう。
「ほんと何しにここへ呼んだわけ?ここで何かあるの?」
「デートだよ、デート」
「ませんな、ガキ」
「ガキガキって、ボクもう15なのに」
「私から見りゃガキだから。」
正直年下は苦手だ。どう扱っていいか分からない。取り分けティエンは。
そもそもこんな夜中からデートってどうなんだ。上海なら何日あっても足りないくらい遊べる場所がある。どうせならもっと時間のある日にしてくれ。
アジア最大級の海洋水族館やゴンドラに乗って通れる海底トンネル、中国茶の専門店、サロンやマッサージ店にも行きたいし………駄目だ、こんなこと口にできない。中国観光好きなのがバレる。
ティエンは不機嫌な私の腕を引っ張り、「まぁ来てよ」と楽しそうに走り出す。散歩中に飼い主より前を走る躾のなってない犬かお前は、と思いながら、引っ張られるままにその後を付いて行った。