深を知る雨
―――連れて来られたのは専門料理店。上海料理のお店らしい。
念のため端末で怪しい店じゃないかどうか調べたが、上海料理を今風にアレンジし見た目を変えてメニューにしている普通の料理店のようだ。
……何のつもりだろう…本当に食事だけ?
ティエンは普通に2階へ行こうとするが、こういう店じゃ2階の方が料理の値段が高い。
「あんまお金使いたくないんだけど…」
「何言ってんの、ボクが払うよ?男なんだから」
男である前に年下だってのに、どこでそんなこと覚えたんだか。
タッチパネルで料理を注目した後、ティエンはテーブルから少し離れた場所へと私を案内した。どうやら料理が運ばれてくるまで買い物ができるようになっているらしく、陶磁器や工芸品、雑貨などが売られている。中でも一際目立つのが衣料品で、私は奥にあるピンクと黒の花柄チャイナドレスから目を離せなくなった。
そしてそれはすぐに隣のティエンにバレて。
「んんん?あれ欲しーの?」
「……別に。ちょっと可愛いなって思っただけ」
「ふうん、やっぱ鈴も女の子なんだね~。じゃあ後で送っとくから、日本で受け取っといて」
「いいよ、別にそんな」
「ボクがしたいの。好きにさせてよ」
……あれ…?こいつ実は良い子なんじゃ……いやいやそんな馬鹿な。
そうこうしているうちに食事が運ばれてきたので、私たちは席に戻った。
白灼草蝦や清蒸石斑といった海に近い上海ならではの海鮮料理や、上海名物の小籠包など、様々な料理を食べさせるためか一品一品の量は少なめになっていて、次から次へと別の料理が運ばれてくる。
う、うっまああああ。
「ね?今やどこの国の食べ物も世界中で食べられるようになったけどォ、本場で食べるとやっぱ違うっしょ?」
料理を頬張りながらコクコク頷く私を、ティエンは満足そうに見ている。
北京料理も好きだけど上海料理も美味しい。こんなん胃袋掴まれて当然だ。だからみんな上海に集まるのかっ!
一心不乱に食べる私の横で、ティエンはあまり食べずに気持ち悪い笑顔を浮かべているだけだった。