深を知る雨
『アハッ、イイ声だねェ鈴。鈴はそうやって血を流しながら床に這い蹲ってる姿がいっちばんキレーだよ?』
…っのクソガキ。あんま調子乗ってっとマジで殺すぞ。と言いそうになるのを堪え、無理矢理笑顔を作り優しい声を出す。
「ティエン、ちょっと落ち着こう?何事も話せば分かるよ」
『どんな物事も話し合いで片が付くなら今頃世界は平和だと思うけどォ?』
「……何でそういつも私と戦おうとするわけ」
『ボクは強い人間が好きなの。強い人間と戦いたいんだ』
能力を思う存分使えない欲求不満。多分それがティエンのこの性格に繋がってる。
「…殺し合いはゲームとは違う」
『同じだよ。ボクにとっては。強い奴倒してレベルアップ、ってね』
私はハア、と大きく息を漏らした。
やっぱりガキだ。物事の良し悪しが分からない、その身に合わない強大な能力だけを抱えた、ただのガキだ。
「―――どうして私が日本を守りながらこう何度も中国に来れてるんだと思う?」
『…んあ?』
「能力の有効範囲が広いからだよ」
私はガラスが自分の方へ飛んでこないよう一歩後ろへ下がる。
直後、大きな音がこちらへ近付いてきた。―――私の呼んだ飛行監視カメラだ。
大量の飛行監視カメラが窓を突破して宴会場へ入ってくる。
破片が散らばり、狼姿のティエンの体を容赦無く傷付けた。
上海の上空を飛ぶ監視カメラの殆どを今こちらに向かわせている。
触らずとも自在に操れる凶器が大量に私の元へやってきているのと同じ。
これだけ固い物を同時にいくつもぶつけたら怪我どころでは済まない。
ティエンは私の考えを察したのか、その前にと私の方へ突進してくる。
この距離では、飛行カメラを操るよりもティエンの方が速いだろう。
このままでは正面から攻撃を受けてしまう。
―――だが甘い。能力の使い方がまるで子供だ。