深を知る雨
《2:25 Sランク寮》
ティエンの前では余裕ぶっこいてたとはいえ、傷がかなり深く、日本に着くまで周囲にバレないよう隠すのが大変だった。服に血は滲むし臭いはするし、息も荒くなってくる中、何とか日本に戻ってこれた私がまず最初に向かったのは一也の部屋。
音をさせずにSランク寮の中へ入り、一也の部屋のドアを小さめにノックすると、起きていたらしい一也がドアを開けてくれた。
一也の顔を見ると何だか力が抜けて、その体に倒れ込んでしまう。
「ごめ、こういう時に頼れるの、一也しかいない……」
一也は驚きながらも私をしっかり受け止めた。厚い胸板が安心感を与えてくれる。
泰久が私のこんな姿を見たら何があったのか根掘り葉掘り聞いてくるだろうが、一也なら大抵必要以上に聞いてこようとはしない。そんな態度に私はいつも救われていた。
一也は何も言わず私をベッドに座らせ、棚から処置に必要な物を取り出して戻ってくる。
「……一也ってこんな時刻に起きてるんだね」
「ショートスリーパーなのかもしれません」
私の返事をしながら手際良く服を脱がせ、手当を始めた。私は大人しく一也の手当が終わるのを待ちながら、一也の顔を眺める。見た目怖いのにこんなに優しい触れ方をするんだから、ギャップに弱い女性ならイチコロだろう。
一也にもいつか、彼女ができたりするのかな。もう30なのに出会ってから1度も浮いた話を聞いたことがない。
特定の相手ができたら私たちのセフレ関係は終わりだから、それはちょっと嫌だけど、その時は仕方ないだろう。
「…一也、いつもありがとうね」
「…いえ。処置はしましたが、できれば様子を見たいので今後もこっそり来てくださいますか」
「ん、分かった。こんな時刻にごめん」
その時、先程一也に脱がされた服の中に入れてあった端末が鳴った。
手を伸ばしてそれを取り画面を開くと、〈プレゼントが送られました。お届け先を指定してください〉というメッセージと、ピンクと黒の花柄チャイナドレスの写真が表示されていて。
……ほんと、あいつはよく分からない。食事を奢ってきたりプレゼントをしてきたり、かと思えば戦いを挑んできたり。よく分からない、けど、きっと私は懐かれているのだろう。変な動物に好かれてしまったものだ。