深を知る雨
2200.12.15
《12:50 訓練所廊下》
「悪い、小雪!今日薫と約束あってさ」
昼休憩の時間、私はいつものように私の元へ来た小雪に断りの言葉を伝えた。あれから数日、私は小雪と一緒に昼食を取っていない。少しずつではあるが確実に距離が開いてきている。このままこの友達関係の自然消滅を目指すつもりだ。
「……最近、あいつと一緒にいること多いね」
小雪の不満そうな言葉に思わず黙ると、小雪も黙る。暫く沈黙の時間が続いた後、私はわざとらしく時計を見て、「そろそろ行かなきゃ!」と背中に小雪の視線を感じながらその場を去った。
薫と約束があるのは本当だ。録画していた映画を見ながらAランク寮で食事をすることになっている。
訓練所の外へ出て訓練所からは割と近くにあるAランク寮まで歩いていると、途中で長い髪の女性が歩いているのを見掛けた。
女ってことは、性欲処理のために来ている人の1人だろうか。
上品なお尻と慎ましい胸、モデルのように細い足。清楚という言葉がとてもよく似合う雰囲気の女性だ。脱いだら凄そうと予想していた時、その女性が石に躓いてふらりとよろける。
慌てて女性の元まで走り、その華奢な身体を支えた。控えめな良い匂いがする。シャンプー何使ってるんですか。
「あ……ありがとうございます」
透き通るような綺麗な声でお礼を言われ、ドキッとした。よく見るとこの人、私と同じ位置にホクロあるじゃん。運命なのでは。
「これは可愛いお嬢さん。先程あなたの歩き姿を見た時から素敵な方だと思っていたが、声まで素敵じゃないか。どれほどまでにオレの心を揺らせば気が済むんだい?」
「は、はあ……」
いつもより低い声を出して口説いてみたが、反応はイマイチだった。折角男の姿なんだから女の子の1人や2人モノにしたいと思っていたが、口説くっていうのはなかなか難しいものだ。