深を知る雨
《13:40 第二グラウンド》
午後の訓練は、Sランク能力者が指揮を取るという形で行われることになっていた。隊長が私のアイデアを採用してくれたらしい。E、Dランクの訓練を指導するのは一也だ。整列した隊員の前に立っている一也を見るとむずむずする。いつもは対等な関係なのに、今は一也が上で私が下。新鮮だ……。
隊員達は新しい指導者をそう易々とは受け入れはしない様子だが。
「“一ノ宮”ってあの……?」
「任せていいのかよ」
「隊長も何考えてんだか」
この部隊の隊員にも一也への差別意識はあるらしく、ひそひそと話し合う声が聞こえる。いつもなら静かにしているのに、殆ど全員がひそひそ喋り始めたためひそひそもひそひそじゃなくなり、場は一気にうるさくなった。
……やっぱ、こうなっちゃうんだ。嫌だな、こういうの。ていうかムカつく。一也のこと何も知らないくせに、分かった風に一也を語られることがムカつく。
ムカつくから何かぶつけてやろうか―――そう思っていた次の瞬間、その場にいた全員が黙った。
いや、正しくは喋ることができなくなったのだと思う。
一也の催眠能力はCランク以下にしか効かない。でも、その分同時に操れる人間の数は桁違い。今このグラウンドにいる程度の人数なら一気に操れる。
それを理解した隊員達はぞっとしたのか、顔を青くした。
数秒後一也は能力を解き、冷たい声で言う。
「黙って動け。いちいち動かされないと何もできないのか?」
一也のこんな口調を聞いたのは初めてで、ちゃんと上の立場としても喋れるんだな、と妙に感動した。
いつもは自分なんて身分の低い人間だとか言って敬語使ったり相手を様付けにしたりしているのに、こういう時はちゃんとできるんじゃん。
隊員達は一也を畏怖したようで、黙って一也の指示通り動き始めた。
多少恐怖政治感があるが、こっちはこれでいいだろう。……向こうはどんな感じなのかな。
泰久だから心配することないだろうけど、うまくいくといいな。