深を知る雨



 《13:00 廊下》遊side


いつもは寮で済ませるところだが、今日は薫が限定商品を買いたいと言うから久々に食堂に立ち寄った。

食堂の限定商品を買うだけ買って食堂で食べようとはしない薫は、きっと人混みが苦手な俺に合わせてくれているのだろう。


「初めてちゃう?薫にしがみつくとか」


食堂の外で薫が戻ってくるのを待っていたからよくは見えなかったが、ちっちゃい男が薫にしがみついてたのは分かった。この部隊でまだ薫と関わろうとする奴がいることに少々驚いて興味本位で様子を見に行ったが、そこにいたのは予想外にもEランクのチビ。


そしてそれよりも予想外だったのは、


「薫が大人しく自分のもん渡すんも初めてよな」


場所が食堂だろうが何だろうがすぐに手が出る薫が、今日は喧嘩しなかったこと。


「あの底辺、マジで必死な顔してたんだよ。目ぇ血走ってたし。どんだけメロンパン好きなんだよってある意味恐ろしくなったわ」
「ぶっ」


薫を知らないわけじゃないだろうに、メロンパン1つで目を血走らせて縋るあのチビを想像して吹き出してしまった。


「おもろいやん、もっとちゃんと見とけば良かったわ」


この時の俺は―――あのチビと深く関わることになろうとは、思いもしていなかったのだ。




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