深を知る雨



「一生に1度くらいは好きでもない男とそーいうことする時だってあるでしょ。別にあたしは軽蔑しない」

私の場合は一生に1度どころか好きでもない男としかヤったことない、と思ったが、それは多分楓も同じだろうから言わなかった。

楓はAランクの3人とヤることヤってるけど、あの3人の誰かが好きってわけでもなさそう。多分私と同じで性行為に大した意味を見出だしていないんだと思う。卓球とかバスケとか、その辺のスポーツをやってるのと同じ感覚で性行為をしてるんだと思う。

楓は私の発言からして私が誰かとヤったのだと察したらしく、相手を特定しようとしてくる。

「で?相手は?薫?」
「何で真っ先に出てくるのが薫なの……」
「あいつ勘良いし、あんたが女ってことに気付くなら薫かなって」
「……楓は私と薫がヤってたらどう思う?」
「別に、元気なんだなって思うけど?」

……ドンマイ薫、アウトオブ眼中だよ。薫が他の女と盛ってても“元気なんだな”としか思わないらしいよ……片思いって辛いね……。

「いやー、実は、この間楓が1回会った人なんだよね」
「この間……いつの話?」
「ほら、薫と一緒にいた休憩所来た時あったじゃん。あの時私が一緒にいた瞬間移動能力者」
「あぁ、あの。やっぱりバレちゃったんだ?」
「うん……。ていうか小雪、最初から知ってたみたいで……」
「え、小雪っていうのあいつ。小雪って澤小雪?雪乃のお兄さんの?」
「ええ!?」
「え、何。何に驚いてんの」
「小雪って雪乃のお兄さんなの!?確かに名前似てる!雰囲気もちょっと似てる!」
「……知らなかったのね」

あんな美男美女兄妹を産むとか両親はきっと凄い美形に違いない、なんて考えていると――――偶然とは怖いもので、遠くに見える木の下のベンチに、長い黒髪の美女が座っていた。

遠くから見てもその美しさが目立つ雪乃は、朝の空気を楽しむように空を見上げて座っている。

「噂をすればなんとやら、ね」
「わ、私、話し掛けてみる!」
「えぇ?」

散歩中の楓を引っ張って雪乃のところまで走った私は、「おはようお嬢さん」といつも以上に低い声で話し掛けた。

その作った声が面白かったのか隣の楓はぶふっと吹き出し、その後雪乃に挨拶する。

「おはよう雪乃。この人ちょっと変だけど気にしないであげてね」

どうやら楓と雪乃は知り合いらしい。

「おはようございます……。早いですね」

雪乃は私の存在にちょっと戸惑いながらも挨拶を返してくれた。

「あたしは朝よくこの辺歩いてるからね。雪乃も散歩?」
「散歩、というか……いつもより早く起きてしまって、行き場がなくて」
「あー…Sランク寮は居づらいの?やっぱ」
「少し……。Sランクのお2人はあまり私を必要となさっていませんし、会話もあまりしたことがなくて」

楓のいるAランクとは大違いだ。Aランクの3人は楓とよく一緒にいるし、そのうち2人は楓に恋心を抱いているし、里緒も女である楓とはよく喋ってるみたいだし、楓にただの性欲処理の道具って感じはない。

仲良い同士のスキンシップの延長のような性行為、って感じなのが想像つくけど……Sランクは無愛想な泰久と一也だもんなぁ。



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