深を知る雨

2200.12.23



 《4:00 Sランク寮》


体内時計とは凄いもので、一也に抱き潰されて寝てしまっていた私は、それでもいつものような時刻に目を覚まし、焦って起き上がる。

一也が私の昨日の服を下着から何まで洗って用意しておいてくれていたので、急いでそれを着て一也たちのいるであろう1階へ向かった。

居間に近付くにつれて香ばしい匂いと僅かな話し声が聞こえてくる。彼らはこんな早い時刻に朝ご飯を食べているらしい。

「おはよう!ごめん、昨日疲れてて……」

勢いよくドアを開けた私に、一也が「おはようございます」と昨夜とは全く違う微笑みで挨拶を返してくる。

「よく眠れたようで何よりです。ああ、僕のことは気にしないでくださいね。どこでも眠れる人間ですから、ソファで寝たとはいえ疲れはありません」

加えて、絶対に同じベッドで寝たくせに、泰久に聞こえるように大嘘を言う。どうやら、私が一也のベッドで寝てしまい一也が仕方なくソファで寝たという設定らしい。

紅茶を飲みながら電子新聞を読んでいた泰久は顔を上げ、挨拶もせずに厳しい口調で言ってきた。

「一也から報告を受けたんだが。お前は最近どこぞの男の部屋で寝ているらしいな」

……一也この野郎。
ぎろりと睨むが、一也は涼しい顔でトーストをかじってる。

さすが、私のことよく分かってる。一也がやめろと言うよりも、泰久に何をしているか知られる方が私は怖い。

知られたくない。泰久の前では無垢な子供のままでいたい。

「……お泊り会しただけだよ。女だってことはバレてない」
「バレるバレない以前に、お前が年頃の女であることに変わりはない。男と2人で同じ部屋で眠るのはどうかと思うが」

………はぁああ?ムカつく。こっれはマジムカつく。何それ。何それ何それ。

「都合いい時だけ女扱いしないでよ」
「何だと?」
「私のこと女だなんて思ってないくせに。一度もそう思ったことないくせに!ていうか一也はいいわけ!?私一也の部屋で寝たよ?」
「一也はお前に何かしたりしないだろう」

……ソーデスネ!!

一也は泰久と同じで私のこと妹みたいに大切にしてるもんね?女として見ることなんてあるわけないもんね?まして私を抱くなんてあるわけなーーーい。

……あーもームカつく。泰久の鈍感さにもだんだんムカついてきた。

「何が“年頃の女”だよ。そんな風に見たこと一度もないくせに。泰久にとって私はいつまでも子供のままでしょ?」
「俺から見ての話ではなく、客観的に見た時の話を…、」
「ほら、ほらね!」
「何をそんなに怒ってる?」
「好きな人に都合いい時しか女扱いしてもらえないんだから、そりゃ不機嫌にもなるわ!!」
「………は?」

言った後で気付き、泰久の怪訝そうな顔を見て逃げたくなった。

こ、こんなはずじゃなかった。どうせ告白するならもっとロマンチックな雰囲気の中告白したかった。何故私は怒りを込めて愛の告白をしているのか。

全速力で帰ろうとしたが、それを凌ぐスピードで泰久に後ろから腕を掴まれた。

「待て、まだ話は終わってない」
「お、終わりました。私の中では終わりました!」

泰久の顔を見れない。

「お前の気持ちに応えることはできない」
「デスヨネ!」

“考える時間をくれ”すらない。即効で振られた。予想はしてたことだけど、結構凹む。

「それに今話しているのは男の部屋に泊まるという行為への注意であって、」
「う、うざい…!まだ言ってる!うざい!」

マジで保護者かお前は!20過ぎた子供の男女関係にまで口出す保護者は過干渉だわ!ていうか私の告白は一言で済ませてその話続けようとするってどうよ?絶望的にデリカシーなくない!?

「……何で泰久なんか好きになっちゃったんだろ」
「は?」
「泰久なんか好きにならなきゃよかった」

泰久の手を振り払い、

「ばーかばーか!ちんこもげろ!」

最後にそれだけ叫んで部屋を出た。



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