深を知る雨
《4:10 Sランク寮》一也side
「何だあれは」
彼女が“ちんこもげろ!”なんていう仮にも女性が使うとは思えない捨て台詞を吐いて出て行った後、泰久様は困惑した声を出した。
何故彼女があんな風に怒ったのかよく分かっていないらしい。
あの捨て台詞と泰久様の間抜けた反応との相乗効果で正直少し面白い。
「泰久様は女心を分かっていませんね。彼女がどんな思いで気持ちを伝えたことか…」
「一時の気の迷いだろう。誰かと恋をしたい気分なんだ」
こいつほんと………野垂れ死ねばいいのに。
「あの方は欲求不満なんです。泰久様に触れてもらえないから他の男と関わろうとする」
「何故俺があいつに触れなければならないんだ」
「彼女は何年も泰久様だけを見てきましたよ」
「そんなわけがない」
この男の鈍感さは、時として僕を苛立たせる。彼女のことに限らず、与えられる幸福に気付きもしないこの態度を見ると、人間の不平等というものを見せつけられているようで良い気がしない。
「…泰久様は贅沢ですね」
「どういう意味だ?」
「僕なら、あんな顔で告白されたら、即座に軟禁して、二度と外へ出しはしないのに」
場合によっては軟禁どころでは済まない。身体の自由も奪ってしまうかもしれない。ああ、でも彼女の活発さを無理矢理奪ってしまうのもいかがなものだろう。逃げようとする彼女の足を捕まえて引き摺り戻し、散々抱き潰すのもいい。ストックホルムシンドロームを利用して好意を抱かせたうえで、彼女の目の前で自殺したい。
「……少なくとも、お前のような危険な男にはやらん」
「あはは、そうですか」
その保護者面がいつまで持つか見物だな。