深を知る雨
男の1人がぽん、と私の肩に触れた。それが合図と言わんばかりに他の男たちも私の近くにやってきて私を取り囲む。
「高校生?可愛いね」
……あん?
「ばか、あんま子供に手ぇ出すなよ。中3くらいじゃねーの?」
成人してるんですけど。アダルトなんですけど。
「いやでも、高校生だろ。なぁ、名前なんていうの?」
「……さっさと退散した方がいいですよ」
「え?」
「危ないですから」
私がキレる前に退散しろ、という意味でもあるが―――
「てめぇら何やってんのォ?」
―――こいつが帰ってくるまでに退散しなきゃやばいぞ、という意味でもある。
あーあ……言ってる内に来ちゃった。
「汚ねぇ手で鈴に触ってんじゃねーよ。折角のドレスが台なしだろうが、あ?」
ドスの利いた声を出しながらこちらへ近付いてくるティエンを見て同情した。これから酷い目に合うであろう男達に。
ティエンは能力で服の中からカッターを取り出し、私の肩に触れていた男の手を―――容赦無く刺す。
男は呻き声を上げてティエンに殴り掛かろうとするが、ティエンはそれを避けて男の背中を蹴り飛ばし、うつ伏せに倒した。
そしてその後頭部を踏み付け、今度は刀を取り出して舌なめずりをしながら男の首筋をそれでそっとなぞる。
ああ、そろそろ止めなければ。そう思って一歩前に出た時、ティエンは男から足を退けた。
「2度と来んな、下衆」
男はひっと短い悲鳴を上げて走り出す。他の男達もそれに続いて逃げ去っていった。
猛獣ティエンを全力で止めようとしていた私からしてみれば拍子抜けだ。
……………殺さなかった。あのティエンが。
さすがに日本の一般人を殺したら問題になるってことを、ちゃんと分かってるらしい。
「行こっかァ、鈴」
こちらに振り返ってにこりと人懐っこい笑顔を見せるティエンが、“まだ15歳”ではなく“もう15歳”であることを知る。
「……ティエンも大人になったね」
しみじみそう感じながら出口へ続く通路を歩いた。さて、お腹も空いたしさっさと帰って小雪と晩御飯を食べよう。
そう思いながら隣を見ると、ティエンが消えていた。
!?
はぐれた!?この一本道で!?と焦って振り返ると、数歩ほど後のところにうずくまっているティエンがいた。
……な、何だろう?お腹痛いのかな?
「ティエン?どうしたの?大丈夫?」
「………なわけ」
「え?」
「いきなりなんなわけェ!お、大人とか、はァ!?いつも子供扱いするくせにィ!」
顔を上げたティエンの顔は――――真っ赤だった。
「ばっかじゃない!ボクが大人なのは前からだしィ!」
「……そ、そうだね」
「今更気付くなんて鈴もマヌケだね!」
そんな耳まで真っ赤にして罵られたって全然怖くないんですけど。
……やっぱり、子供だなぁ。
思わず笑いが零れてしまう私に、ティエンはまた少し不機嫌そうに頬を膨らますのだった。