深を知る雨
《21:15 日本帝国軍軍事施設》
思ってたより早く到着することができた。着替える時間も十分あった。
外出許可をきちんと取ったわけではないので出入りしているところを見られるわけにもいかず、正式な入り口ではない方から入ってこっそりCランク寮に向かっていると、Aランク寮に明かりが付いていることに気付く。
まぁまだこんな時刻だし、起きてても不思議じゃないか。
窓からこっそり覗くと、居間には薫と遊、楓だけが座って話をしている。里緒はいない。……ちょこっとだけ顔出してもいいかもな。
小雪との約束の時刻まであと15分。車乗って行けば3分前にここを出ても多分間に合う。
そう思って呼び鈴を鳴らした私は、予想以上の速さでドアを開けられて正直ビビった。
居間から走って来たらしい楓は、「やっぱり、こんな時刻に来るならあんただと思った。いいところに来たわね」と何故か満面の笑みを浮かべて私の手を引っ張り、早足で居間まで向かわせる。
居間に着くと、ソファに並んで座る遊と薫が同時にこちらを向いた。
その目が悲しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「ホットプレート。新しいの買ったの」
テーブルの上にあるのは、楓が注文したらしいホットプレート。
「お好み焼きだけじゃなくて焼き肉とかタコ焼きもできるのよ。凄いでしょう?」
得意げな顔で鼻を鳴らす楓だが、どうしてもその後ろの、げっそりした顔で座っている2人に目がいってしまう。
……何でこいつら、この世の終わりみたいな顔してんの?
「それで、今度お好み焼きパーティーをしようと思うんだけど。あんたもどう?」
「え、オレ!?」
「そうよ。人数多い方が楽しいでしょ」
正直里緒には会いたくないし、Aランク寮にすら来るべきではない状況なのだが……楓のこの可愛い笑顔を見てしまうと逆らえない。
「わ、かった。行くよ」
気付けばそう答えてしまっていた自分を殴りたい。
くっそ、楓だ、楓が悪い!スウィートスマイルで誘ってきやがって……!性的な目で見るぞ!
と。
「底辺、ちょっと来い」
薫が立ち上がり私の肩に手を回して少々強引に引き寄せ、ひそひそ声で訴えてくる。
「どうにかしてくれ」
「どうにかって、何をだよ?」
「楓は絶望的なまでに料理が下手なんだ」
「料理っつってもお好み焼きだろ?プレートもあるんだし……」
「卵もまともに割れねぇ程度の腕前だぞ」
「……」
「しかも本人は不器用である自覚がない」
「……」
「あいつに料理をさせちゃなんねぇ。来るなら何としてでもあいつが料理しようとすんのを止めろ。俺たちだけでつくるぞ。分かったな」
「何話してんのよ?」
「なっ、何でもねー!」
楓に近付いてこられたので弾けるように顔を上げた。